トレーニング

元プロ野球チームの名トレーナー直伝 圧倒的にケガを少なくする身体の作り方(2)

2016.8.4

 ケガをしない身体づくりとして下半身の機能をよりよくすることが重要であるという、くまはら接骨院の熊原稔院長。正しい投球フォームを確立するためには、足から始まる運動連鎖をいかにスムーズに行うか、ムダな動きや力みを省いて正しい立ち位置から投げることが、まず初めにチェックしたいポイントである。日頃から多くの選手をみていると、ケガをしやすい投球フォームというものが存在し、投げ込みを繰り返すことによってケガにつながってしまうことが懸念されるという。今回は投球フォームのチェックポイントについて解説していただく。


投球フォームのここを見る!

 投球動作におけるスポーツ傷害はその動作の特徴を把握する必要があります。投球障害の原因となるものが疲労や筋力低下など体力面によるものか、もしくは肩・肘に負担のかかるフォームで繰り返し投球動作を繰り返した結果によるものなのかをチェックします。文献や書籍などでは4~6つのフェーズ(投球相)にわけられていますが、大まかに投球動作の一連がわかればフェーズの数は問題ではありません。今回は4フェーズにわけて考えます。


【ワインドアップ期】
「ワインドアップ時に骨盤の位置がニュートラルな状態に保たれているか」

  図1


 投球時の立ち位置において骨盤の位置が前後左右にぶれていないかを確認します。この姿勢が正しく保たれていないときは次のことをチェックします。

・ 踏み出し足(軸足ではない方)が片足で身体をしっかり支えるだけの支持能力がない
・ 軸足の太もも裏(ハムストリングス)の柔軟性が低下していないか
・ 左股関節から腿を上げる屈曲動作の筋力が低下していないか(右投手の場合。左投手であれば右股関節の屈筋力)
・ 体幹の筋力が低下していないか
・ 足部の筋力(足底筋で地面をつかむ力)が低下していないか







【アクセラレーション(加速)期】
「トップポジションを作ったときに、投げる方の手が頭部より離れていないか」

  図2


 投球する方の手が頭から離れた状態でスローイング動作を行うと、どうしても腕を振る軌道が大回りになってしまい、肩の前方に負担がかかりやすくなります。特に手のひらが後ろ向きになるようにひねり動作を加えながら、トップポジションに持っていくことが理想的です。この姿勢を保つためには次のことをチェックしましょう。

・ 正しいフォームと誤ったフォームの違いが理解できているか
・ 肩周囲部の筋力が低下していないか(安定性を高めるローテーターカフを含め)
・ 肩関節後方部の柔軟性が低下していないか
・ 上半身の筋肉が連動してしっかり動いているか(背中、脇腹、肩周辺部など)
・ 踏み出し足側の股関節内転・内旋動作に制限がないかどうか(関節可動域が狭くなっていないか)






【ボールリリース期】
「ボールをリリースする時、投球側の肘は肩のラインから下がっていないか」

  図3


 よく指摘される「肘が下がった状態」です。ただし体幹が傾くとそれに伴って肘のポジションも変化します。肩甲骨後面にある骨の突起と上腕骨が一直線上に並ぶことを「ゼロポジション」と呼びますが、ゼロポジションを維持することが肩への負担を軽減させます。簡単に確認する方法としては、両手を頭の後ろで組み、そこから肩の位置を変えずに肘を伸ばした状態がゼロポジションです。グリコのマークを想像していただければわかりやすいと思います。またこのような姿勢をとるためにチェックしたいことを確認しましょう。

・ 肩周囲部の筋力が低下していないか
・ 肩甲骨そのものの動きが悪くなっていないか
・ 力んで投げることによって非投球側の身体が開いていないか(早い段階で正面を向いてしまう)
・ 肘が上がってこないので柔道の背負い投げのように担いで投げる状態になっていないか(いわゆる上体投げ)


「ボールをリリースする時、グローブを横や後ろに引きすぎていないか」
 同じくボールリリース時に投げる腕と反対側の腕の使い方もチェックしておきたいところです。グローブを自分の身体に引き寄せるようにして投げますが、このときに身体から離れて横に流れてしまったり、後ろに引きすぎてしまったりすると身体が早く開いてしまう原因となり、やはり肩や肘を痛めることになってしまいます。グローブの位置が正しい場所におさまるようにフォームを確認しましょう。

・ 体幹筋力が低下していないか(バランスが崩れてグローブの位置をコントロール出来ない)
・ 踏み出し足側の股関節内転・内旋動作に制限がないかどうか(関節可動域が狭くなっていないか)
・ 踏み出し足の股関節周辺部の筋力が低下していないか
・ 軸足から踏み出し足へのステップでしっかりと体重移動ができているか


【フォロースルー期】
「ボールを投げ終わった後のフォロースルーで踏み出し足に体重は乗っているか」

  図4


 ボールをリリースするときに軸足から踏み出し足へステップして体重移動を行いますが、このとき下半身の力を上半身に伝達するために、踏み出し足側にしっかりと体重が乗せることが大切です。体重をしっかりと乗せていないと上半身に依存した投げ方となってしまい、肩や肘への負担が大きくなります。フォロースルーの時に気をつけたいチェックポイントを確認しましょう。

・ 体幹筋力が低下していないか(投球動作中にバランスを崩しやすくなる)
・ ・踏み出し足側の股関節内転・内旋動作に制限がないかどうか(関節可動域が狭くなっていないか)
・ 踏み出し足の股関節周辺部の筋力が低下し、不安定になっていないか
・ 踏み出し足のバランス能力が低下していないか(片足支持能力)
・ 踏み出し足側への体重移動が十分になされているか


 正しいフォームで投げることが投球障害の予防には不可欠ですが、一方でどこをチェックしたらいいのか曖昧でわからなかったり、正しいと思っていたものが実は違っていたりといったことも考えられます。今回は日頃から治療院で行っている投球動作のチェックポイントについて解説をしました。肩や肘に違和感がある、痛みがあるという選手は一度ぜひ投球フォームを確認してみるようにしましょう。


取材・構成:西村典子(東海大学硬式野球部アスレティックトレーナー)
監修:熊原稔

熊原実
(株)クマハラアスリートサポート代表、くまはら接骨院・院長
阪神タイガース・チームトレーナー(1992~2001年)、新庄剛志パーソナル・トレーナー(2001~2002年)、東北楽天ゴールデンイーグルス・コンディショニングディレクター(2010~2014年)等、長年にわたってプロ野球選手のトレーナーを務める。2013年にはWBC・侍ジャパン日本代表トレーナーとしても帯同。現在はトップアスリートからジュニアまで幅広い選手への治療・サポート活動を行う。日本体育協会公認アスレティックトレーナー。


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