大学1年の頃、私はまだ中途半端な投手でした。力で押すのか、それともかわすのか?今思えばはっきりしない投球をする投手だったのですが、ある試合の後にその審判の方から「それだけ球速があって、カーブもよく曲がる。なんでもっと攻めないんだ」と指摘されたことがあったので、「次にあの人が審判の時は徹底的に攻めてみよう」と思って試合に望みました。
その方は普段はジャッジはとても正確です。しかし時々「勝負」を優先する人でした。2ストライク追い込んだ後、ちょっとすっぽ抜けた球がたまたまストライクゾーンに入っても判定は「ボール」。逆にボール半個くらい外れていても、バッターが「しまった!」という顔をしていると「ストライク」のコール。自分の投球に対する満足度とジャッジが一致していたので、とてもリズムよく投げられることができました。恐らく大学の間に10試合前後その方が球審をしている時に投げましたが、ほぼすべての試合で2桁三振を奪い、卒業時にはリーグの奪三振記録を樹立するまでになりました。
その方は「終始一貫、正確なジャッジ」という観点では良い審判ではないのかも知れません。でも私にとって彼との出会いは投手として成長する上で欠かせない要素でした。そんな経験から「審判が選手の力を引き出すことがある」と今でも思っています。
ちなみにその方、2010年に国際野球連盟(IBAF)から最優秀審判員として表彰されました。もう20年近くお会いしていませんが、恩人とも言える方の名誉ある受賞を知りとても嬉しく思いました。
※Facebookページ「少年野球指導者のひとり言」より転載。
著者:廣川 寿(ひろかわ ひさし)
愛媛県出身。松山北高校時代に投手として選抜高校野球(春の甲子園)に出場。甲南大学時代は投手として阪神大学野球連盟の数々の記録を塗り替える。社会人野球まで投手として活躍。自身の息子が少年野球チームに入部したことをきっかけに学童野球のコーチとなる。現在は上場企業の管理職として働く傍ら、横浜港北ボーイズのコーチとして「神奈川NO.1投手の育成」を目標に掲げ、中学生の指導に情熱を注ぐ。