相手のビデオはよりシンプルにプレーするための材料
――選手と映像を見る時に「ここだけは見ておいて」とか「こういう見方をしなさい」といった指示はしていますか?
ウチは食事を摂りながらビデオを見ることが多いのですが、見終わった時に『こういう場面はこうだから』という話をせず、次の日の練習前に『相手はこういうピッチャーだから、今日はマシンをこんな設定にするので、こういう打球を打つように心がけよう』と伝えるぐらいですね。
攻撃の面でも守りの面でも、大きく3つほどのことしか言いません。頭でっかちになり過ぎて、いざプレーになると手や足が出なくなることが嫌だからです。実際のところ、映像をもとに細かい対策をしているかというと、それほどしていないんですよ。選手に映像を見せるのは、相手に対するイメージを持ってほしいからなんです。相手ピッチャーはこういう投げ方で、スライダーがあってフォークがあって、牽制はこんな感じ……というイメージだけを持ってくれれば、あとはそれらを集約してこちらが指示を出すだけなので。
――選手はイメージを持ったまま、シンプルにプレーすればいいということですね。
相手のビデオって、複雑な情報を仕入れるために見るのではなく、よりシンプルにゲームに臨むために見るものだと思っています。選手にはできるだけシンプルにプレーしてほしいのです。複雑に考えるのはベンチ(監督)の方。
野球は考える時間がいくらでもあると言われますが、試合に状況が刻々と変わるし、いろんなことが流動的に動いています。夏になれば息も上がってくるし、応援が作る雰囲気もプレーに影響を及ぼします。高校生がそんな状況の中で、こちらが求めているほど頭を使って野球ができるかというと、そういうわけにはいかないものです。一方、グラウンドでプレーをしていない我々ベンチには、考える時間はいくらでもあります。だから、相手ピッチャーやバッターの傾向をベンチが考えて、選手にはできるだけシンプルな情報のみを与えてあげたいですね。
――今にして思えば、あの仙台育英戦の苦い経験は、監督の「若さ」の表れでもあったのでしょうか?
そうですね。当時は自信もなかったし、まだまだ甲子園に出場することで満足していた部分もあったと思います。ただ、監督として初の甲子園があれで良かったと思っています。もし、安易な考え方のまま勝ってしまったり、下手に良い試合をしていたら“甲子園に出てしまえば、まぁなんとかなるもんや”と勘違いして、その後はもっと苦労していたと思います。(取材:加来慶祐/写真:編集部)
後編へ続きます。
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