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【慶応】森林貴彦監督|より高いレベルの野球を〝愉〟しむために、地道に練習して上手くなる

2026.4.12

2023年夏に甲子園優勝を果たした慶応。『エンジョイ・ベースボール』という言葉と自主性を重んじるスタイルもあって、社会的にも大きな話題となった。あの夏からもうすぐ3年となるが、その優勝がもたらした影響や、チームが目指すスタイルなどを改めて森林貴彦監督に聞いた。


100人いたら100人なりの貢献の仕方がある

――優勝した当時は107年ぶりということもあって取材対応などかなり大変ではなかったですか?

そうですね。優勝してから半年くらいはかなり多かったですね。スポーツ関連の新聞や雑誌だけでなく、これまでに縁のなかったような一般誌などからの取材もあって、自分にとっても良い勉強になりました。

――当時、何が一番大変でしたか?

自分自身のスケジュール調整はやはり大変でした。ただそうやって話題にしていただくことも、優勝したことへの恩返しだと思いますし、社会からそれだけ求めていただけるということでもありますから、できるだけお受けしたつもりです。

――世の中的には「エンジョイ・ベースボール」という言葉が先行して、髪の毛をなびかせた選手が丸刈りの選手たちに勝ったということが過剰に取り上げられている印象も受けました。実際、慶応高校の野球部の取り組みを知っている人は、当然厳しい練習もしていることは知っていると思いますが、ライトな層には少し違った形で伝わっているようにも感じました、そのあたりについてはどうですか?

選手が笑顔でプレーしているシーンや、他の学校と比べて少し髪の毛が長いところを切り取られて『エンジョイ・ベースボール』と結び付けられるのは確かにありましたね。メディアとしても限られた時間、文字数で伝えないといけないので、どうしてもそんなイメージが先行してしまうのは仕方ないのかなと思いますが、目指しているものや伝えたいものとは違うなというのは当然ありました。

優勝した2023年だけでなくその前の2018年もそうでしたが、いまだに髪の毛の話題が出るというのは少し残念ですね。高校野球のあり方とか、その先の議論になかなか進まないのだなということも感じます。

――慶応高校の野球部のホームページには部訓、心得、コーチ心得や監督のメッセージなども紹介されていますが、そこまで見る人は少ないですよね。良い機会だと思うので改めて、森林監督から慶応高校の目指すものを教えてください。

日本人が“エンジョイ”というと楽しむ、楽をするみたいにとらえてしまい、それは良くないという風潮がまだまだあると思います。「笑うな!歯を見せるな!」みたいなことですよね。ただ、オリンピックなどを見ても、たとえ結果がベストなものではなくても、その場で最高を目指して競技することを楽しむというのは自然にあることです。決してニコニコ笑いながらやることがエンジョイとは考えていません。

優勝した2023年の夏で言えば、そのチームの最後の大会、最後の試合を前年優勝でしかも春の選抜には負けた仙台育英と4万人以上の大観衆の前でできるというのは最高じゃないですか? だから我々の目指しているのは「より高いレベルの野球を〝愉〟しむ!」ということです。
同じ野球でも県大会レベルより関東大会レベル、全国大会レベルの方がより愉しい、そしてそのために上手くなろうというのが目指すところです。

より高いレベルを目指すのであれば当然地道な練習もしなければいけませんし、チームとしても個人としても色んな試行錯誤があります。チーム内での競争、切磋琢磨することもある。だから講演などでお話する時も楽をする“楽しむ”ではなく、愉快な方の“愉しむ”を使うようにしています。

――2023年に優勝したことによって、チームや選手、森林監督自身の変化などは何かありましたか?

私自身は意識して何かを変えたということはありません。2023年に一つのモデルができたので、そこと比較して伝えるということはありますが、毎年選手も違いますから、そこは難しい部分だと思っています。特にうちは「監督の考えに染め上げよう」という組織ではないので、その年にいる選手たちで今年の色を決めてほしいという考えです。

一度優勝したからといって、こちらが言ったことがビシッと浸透するようなこともありませんし、私自身もそれを求めていません。だから毎年、そのチームのベストをその年の選手たちと目指していくというのは優勝する前もその後も変わりません。



――入部してくる選手の意識が変わったと感じることはありますか?
 
志が高い選手が多少増えたかもしれないですね。「日本一を目指す!」ということは言いやすくなったかなと思います。ただ、元々神奈川を勝ち抜くには横浜高校、東海大相模という全国でもトップのチームがいるわけですから、目指すレベルという意味では変わっていないと思います。

――ちょうど名前の出た横浜高校や東海大相模と比べると、慶応高校の部員は推薦入試、一般入試、内部進学と多様性があると思うのですが、そのあたりの難しさはありますか?

推薦入試で入ってくる選手の方が野球の技量、比重は高いですし、実際にメンバーに占める割合も高いです。ただ推薦入試の選手だけが頑張って、それ以外の選手はお客さんみたいなチームでは結果は出づらいというのは確かです。もしそういう状態で結果が出たとしても、我々指導者も嬉しくありません。だから異なるバックグラウンドを持った選手たちが上手く融合して、お互いにクロスオーバーできるかというのは、うちのようなチームにとっては非常に重要だと思っています。

――そういう状態のチームにするために、指導者側が意識していることはどんなことですか?

レギュラーになる、メンバーに入るというのは「野球」が評価基準になりますが、それ以外の評価基準やプレー以外で存在感を出せる場を作っていくというのは大事だと思います。例えば新しい情報やトレーニングの勉強会をするとか、野球教室のイベントを企画するとか、主将と副主将だけではなく部門のチーフを置くということもその一つです。

プレーすること、試合に出ることだけが活躍の場ではない。100人いたら100人なりの貢献の仕方があるというのは強調しています。

うちはありがたいことに指導者が私だけではなく、大学生のコーチが11人いて、部長と副部長も含めて多くのスタッフがいるので、「指導者から見られていない」ということは防ぎやすいとは思います。だからレギュラーは難しくても何かを磨いてベンチに入るとか、練習試合でもいいからマウンドに立つとか、目標もそれぞれ決めて、取り組めるようにはしています。(取材・西尾典文/写真・編集部)

後編に続きます

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