勝てば全員で喜び、負けたら全員で悔しがるチームを作りたい
練習は基本的にメンバーが中心だが、夏のメンバーを外れると、6月末か7月に引退試合として3年生で紅白戦をする。それが一区切りとなり、受験勉強に切り替える子や練習の手伝いに来てくれる子もいる。選手によっては野球部から離れる子もいるが、そういう子は学校生活を満喫し、“普通の高校生”として生活を送る。だが、それも決して悪いことではないと指揮官は思っている。
興国では基本的に入部希望者全員を受け入れる。ボーイズの経験者もいれば、中学でいったん野球を辞めるも高校でまた野球がしたいと志す子もいる。
「そういう子は途中でしんどくなったら休みがちになることもあります。そうなった時は僕自身が声を掛けに行きますが、現場を良くしようとすればどうしても手間がかかります。そこまで時間を取られそうになる子は正直、引き受けなくてもいいのでは、と思われるかもしれませんが、僕は体が動くうちはそういう子でも何とかしたいと思うんです。
僕は今まで野球に何度も助けられました。人間力というか、そういうところは野球で学ばせてもらいました。それは野球が上手い、下手は関係ありません。途中で離れられるのが寂しくて、辞めようとする子を何とか止めたくなる。それでも辞める子はいますが、野球をやり切ったことによって、得られるものがありますし、将来に役立つものがあるのかなと思ので、辞めますと言われても、“はい、分かったと”は、やんちゃな子だったとしても言えません」。
指導者はコーチを含め計10名。基本的にBメンバー担当など、ある程度のカテゴリーで振り分けをしている。だが、指揮官は色んな指導者に見られることも必要だと思い、1人に任せるのではなく、違う視点も必要なため色んな指導陣から見てもらうようにしている。指導者も苦悩して孤独になってしまい、自分を見失ってしまうことを防ぐためだ。コーチ陣も同じ方向を向くことの重要性も感じている。
「(智弁和歌山)高校時代は少数精鋭の中でやってきました(3学年で計30名)。勝ちにこだわるなら少数精鋭の方がやりやすいですよ。ただ、人数が多くても、全員を同じ方向に向かせて、ベンチ入り、ベンチ外関係なく、勝てば全員で喜び、負けたら全員で悔しがるチームを作りたいんです。絶対に難しいのは分かっているんです。でも、そこは僕の中でモチベーションにして現場に立っています。大人数の環境でも緊張感はありますが、緊張をほどいて、生徒との距離感を程よく作っていきたいんです。生徒はそれぞれ個性があるので、伝え方を変えて、道がそれぞれ違うからこそ僕も引き出しをたくさん持たないといけないと思っています」。(取材・文・沢井史/写真:編集部)
*後編に続きます。
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