学校・チーム

【帝京長岡】元プロ監督が重視する、実戦を意識した守備練習と声出し

2021.6.21

元プロ野球選手である芝草宇宙監督が就任して2年目を迎えた新潟・帝京長岡高校野球部。プロ、アマチュアでコーチ経験もある芝草監督の信念は勝負に徹すること。そのため、練習でも常に実戦を意識するように選手たちには伝えているという。さまざまな練習メニューのなかでも、特に守備練習には時間を費やし、守備に対する強い意識をもたせている。その背景には何があるのか。練習内容、監督、選手の話をもとに、その意図を探ってみた。


「高校野球では、取れるアウトを取れなかったら、失点につながるケースが多い。だから守備に対する意識は全員が強くもたなければいけません」。

こう話すのは、2020年から帝京長岡高校を指揮する芝草監督だ。元プロ野球の投手として、失点の重さを痛いほどわかっている指揮官だからこそ、守備への意識をチームに根付かせている。

もちろん、打力も重要になるが、「打撃に関しては、各世代で質も違ってきますので、長打力を活かせる場合もあれば、機動力を使ったほうがいいときもある。それに、バッティング練習なら全体で長時間やらなくても、個人練習でもいくらでも振りますから(笑)」と芝草監督は話してくれた。

取材に訪れた日も、ノックの時間に多くの時間を割いていた。ノッカーを務める小野寺翔コーチが、各ポジションにゴロやライナー、フライなど強弱をつけながら黙々と打っていく。それに対して、選手たちも反応していくのだがミスもちらほら。そんなとき、回りの選手から大きな声がかけられる。
「体を入れて!」
「もっと腰を落として」
「反応早く!」
などなど。

ときには、厳しく叱咤されるケースもあったが、選手たちは、その言葉に鼓舞されるように必死に守備練習をこなしていた。

「学年に関係なく、選手同士で厳しく指摘、指示することが今のチームの特徴でもあるので」

こう教えてくれたのは、キャプテンを務める上村耕大(3年)。チームのまとめ役として周囲への気配りや目配りを心がけているという。「守備からリズムを作って攻撃につなげるのが今のチームの特徴」(上村)だからこそ、さらなる守備力アップは夏の県予選に向けても重要なポイントになるだろう。

守備の徹底に加えて、声出しの重要性も選手に伝えている芝草監督。「声を出すのが苦手な選手がいるのもわかります。でも、苦手な中でも、全力で出そうとしているかが重要。その姿勢が回りにも伝わるわけですから。だから、日頃からの挨拶だったり会話がったりをしっかりしていないと、そこにはつながらないんです」。



選手と一緒に声を出しながらシートノックを始め、守備練習を指示していく小野寺コーチ。

堅い守備力があるからこそ、打力も生きる

芝草監督が「完投能力のあり、ピッチャーとしてまだまだ成長が期待できる」と高評価する、2年生右腕の茨木秀俊も守備への意識は強い。「他校に負けない練習をしている点を挙げるとすれば、やはり守備。今のチームの特徴である堅い守備力は、日頃の練習があってこそだと思います」と胸を張る。

182㎝の長身から投げ下ろすストレートが武器である茨木。入学当初は体が細かったというが、1年間、みっちり下半身中心のトレーニングをこなしたことで、球のキレ、スピードが増しただけでなく、制球力もアップしたという。芝草監督も「股関節の柔軟性をつけるメニューを取り入れたことも、ピッチングの成長につながった」と語る。

投手出身の芝草監督は、ピッチャーの調整方については、「中学時代にどれだけ投げてきたかも考慮しながら、その選手にあった調整を考えています」と個々の実績や体力などを踏まえて練習メニューを考えるという。

茨木は、4月後半から5月に行われた春季大会で、昨秋の大会で破れた関根学園にリベンジを誓ったが、4失点と試合をつくれず、チームを勝利に導けなかった。「自分の力不足を痛感しました。だから、もっと練習を積んで、夏の大会では失点0を目指してチームを勝利に導くピッチングがしたいです」と巻き返しを誓った。


「『信頼して俺についてこい。そしてお前がチームを引っ張っていけ』と監督に言われたことが今でも心に刻み込まれています」と話す茨木。

目標は甲子園出場ではなく、甲子園で勝つこと!

上村、茨木ともに昨秋、今春と悔いが残る試合となり、夏こそは絶対に勝って甲子園に行きたいと口を揃えて話してくれた。

「最後の夏になるので、一球、ワンプレーを大切にしていいチームを作り上げて、甲子園に出場したい」(上村)

「どんな場面であろうと、攻める気持ちを忘れず、勝って甲子園にいきたい」(茨木)  

甲子園の舞台に立つ喜びを知る芝草監督だからこそ、選手たちにも同じ経験をさせてあげたいという。「日頃から甲子園で勝つための練習をしているつもりです。だから目標は出場ではなく、出場して勝つこと。そのためにも、守備を含めて実戦をつねにいしきしなければいけないんです。甲子園で戦うことが、今後の人生の財産にもなりますので」。

野球に限らず、日常生活においても、当たり前に思えることが意外とできていないことは多い守備の徹底も声出しも同じこと。普通のことでも意識することで、選手個々の向き合い方や考え方が変わる。その意識がチームとしてまとまったとき、他に負けない強大な力になるのだろう。

この夏、帝京長岡の部員たちがどんな戦いを見せてくれるか、注目したい。


「選手が大事な場面でエラーしたら、僕自身がなんで練習のときなんとできなかったのだろうと思いますから」と芝草監督は話してくれた。

(取材・文/松野友克)


PICK UP!

新着情報