スポーツでは「心・技・体」が重要だとよく言われているが、実際の練習において主に取り組むのは「技」と「体」の部分が大半ではないだろうか。メンタルトレーニングと言っても、スポット的に取り組むことはあっても、体系化したものを取り入れているチームはまだまだ少ない。しかし実際にはトレーニングとして取り入れることで、パフォーマンスが向上することは科学的に証明されている。そこで今回はメンタルトレーニング指導士として多くの指導経験を持つ小林玄樹さん(株式会社ハイクラス)に、高校球児やその保護者、指導者にとって有効なメンタルトレーニングの考え方について話を伺った。
「メンタルトレーニング」ってどんなトレーニング?
--小林さんご自身も高校球児だったとのことですが、メンタルトレーニングの分野に進まれようと思ったきっかけを教えていただけますか?
小林「高校野球をやっていた時に、東海大でスポーツ心理学、メンタルトレーニングを指導されている高妻容一教授の講習を聞く機会があったことがきっかけです。東海大の大学院生の方が1年ほどチームのサポートに来てくれていて、そういうこともあって自分も東海大に進みました」
--その分野に進もうと思われたということは、成果が実感できたからですよね?
小林「そうですね。自分の通っていた神奈川県立荏田高校は体育のコースがあるんですけど、野球部はそれほど強いわけではありませんでした。秋や春は県大会に出られても一つ勝てるかどうかくらいですね。それが私たちの代は4回戦まで勝ち上がって、最後はその年の選抜に出た日大藤沢に負けたんですけど近年では最高成績でした。私自身もそれまで試合で実力を発揮できなかったのが、夏には打てたりして、成果が出たなという実感はありましたね」
--よく、あの選手はメンタルが強い、メンタルが弱いということを言ったりしますが、トレーニングをすることで変わるものなのでしょうか?
小林「元々はトップアスリートの心の習慣を分析して、その共通点を洗い出すところからスタートしています。それを心理的スキルとしてとらえて、トレーニングすることでメンタル面が強化できるということは科学的に立証されています。日本は比較的この分野は遅れていると思いますね。欧米ではポピュラーなもので、MLBの30球団のうち26球団は専属のメンタルの専門家[玄樹1] がついていて、残りの4球団もパートタイムの専門家がいます」
--具体的な方法や分かりやすい例でいうとどんなものがありますか?
小林「日本で一番有名なのはラグビーの五郎丸(歩)選手のパフォーマンスルーティンですね。あのポーズだけが少し先走っていましたけど、キックする前にいつも同じ動作を繰り返していました。他ではイチロー選手の打席に入る前のルーティンなどでしょうか。トップアスリートはパフォーマンスを発揮するための同じ動きを取り入れていて、それがルーティンと言われるものになりました」
--体力面などはタイムや飛距離などで目に見えやすいですが、メンタルトレーニングの効果が出たかはどのように測ったりするのですか?
小林「そこが見えづらいというのが日本で広まらない理由かもしれませんね。私たちがサポートする時は心理的競技能力診断検査、という検査を用いたりします。モチベーションが高いのか低いのか、心理的に安定しているのか不安定なのか、といったことをチャートにして見ることができるものです。トレーニングの導入前と導入後に行って、人数が多ければ統計処理もします。そうするとトレーニングの成果は見えてきますね」
--フィジカル面だと瞬発力、持久力みたいなものになると思いますが、メンタルだとどのような項目になりますか?
小林「結構多いんですが、チームワークのためのコミュニケーション能力(協調性)、自信、決断力、判断力、予測力、忍耐力、勝利意欲などの項目があります。野球の場合は忍耐力にフォーカスされることが多いですが、それだけではなく様々な要因をひっくるめてメンタルだと考えてもらえればと思います」