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彼らが速いボールを投げられる理由(2019夏)|佐々木朗希(大船渡)

2019.9.17

Timely!webの球速アップ講座でおなじみの相原雅也さん(元四国アイランドリーグ高知、かずさマジック・現ホグレル硬式野球部監督)。そんな相原さんが注目の高校生投手が「なぜ速いボールを投げることができるのか?」解説する恒例企画。今回はこの夏の甲子園出場は逃したものの、多くの話題をさらった佐々木朗希投手(大船渡)についてうかがいました。


凄いのはスピードよりもコントロール

――4月には163キロをマークするなど大注目の佐々木投手ですが、まずフォームの特徴的なところを解説していただけますか?
「まずあれだけの長身で左足をあそこまで高く上げても姿勢がぶれないですよね。左足を勢いよく上げるということはそれだけ回転しようとする力が働くんですけど、佐々木投手の場合は体幹が一緒に回らずにきれいに真っ直ぐ立っている。それだけ力が後ろに逃げていないということになります。
そこから踏み出していくわけですけど、勢いをつけてあれだけのスピードで前に動いていくのに(踏み出した)左足の膝とつま先が真っ直ぐなことが何より素晴らしいと思います。

普通あれだけ左足を高く上げて踏み出したらその勢いで着地もぶれて、体が一塁側に流れると思うんですけど、佐々木選手はそうならない。投げ終わった後にきれいに左足一本で立てる。極端に言うと、佐々木投手の良さはここに凝縮されていると思いますね」

――踏み出した足のつま先と膝が真っ直ぐブレないということは、それだけフォームが安定しているということですか?
「まさにその通りです。私が佐々木投手の凄いと思う点はむしろスピードじゃなくてコントロールなんですよ。過去にも160キロ近い速いボールを投げる投手は何人かいましたけど、それを高校生の時点でここまでコントロールできている投手はいないと思うんですよね。大体勢いに負けて踏み出した足一本で真っ直ぐ立てなくて、速いボールでも抜けたり引っかかったりすることが多いです。でも佐々木投手はしっかりコントロールしている。そこが本当に凄いところですね」



――姿勢が崩れない、真っ直ぐに踏み出して左足一本で立てる、ということはそれだけ下半身や体幹が強いからできることなのでしょうか?
「もちろんそういう強さもあると思いますけど、色んな要素があって今の形ができていると思います。
例えば先日、新聞か何かの記事でカープのスカウト部長が『(佐々木くんは)バスに乗り降りする姿すら格好がいい(姿勢がいい)』というようなことを言っていたそうなんですけど、佐々木投手は普段の姿勢から気をつけているから格好良く見えると思うんですよ。
これは自分もチームの選手たちにも言ったりするんですけど、野球をやっている時以外の姿勢も大事です。私生活から良い姿勢ができているからこそ、野球の場面でもそれが生きてくる。これは体の姿勢だけじゃなくて、心の姿勢という意味でも大事なことですよね」



力を抜いてもリリースする時の形が崩れない

――姿勢、踏み出した足、それ以外で相原さんから見て良いと思う点は他にありますか?
「あとは力の入れ方、抜き方が非常に上手いですよね。(岩手大会のピッチングの)動画を見ても本当に上手く力を抜いている。実はピッチャーにとって7割とか8割の力で投げるのって実はすごく難しいんですよ。リリースがバラバラになって、コントロールが乱れることもある。でも佐々木投手は力を抜いてもリリースする時の形が崩れない。
あとクイックでも速いボールが投げられるということですが、そうなると左足を上げた反動だけでなく右側の股関節でしっかり押す力が強いことが考えられますね」



――今後さらに佐々木選手が成長していくためにはどんなことが必要になりますか?
「まだ体が成長しきっていない状態ですから、体にかかるストレスをよく考えながら投げることが大事かなとは思います。ただ、現状で肩や肘に大きな問題がないのであれば、何かを大きく変えなくても体が成長してくれば自然にもっと凄いボールを投げられる可能性は高いと思います。
強いて言えば、体が大きくなっていった時に今のフォームに固執しないことですね。筋力や柔軟性は20歳を過ぎてまた変わってきます。そうなった時に今の体の状態で投げていたフォームが最適でなくなることも考えられる。ただ、今の佐々木投手の投げている様子を見ていると、彼の中で色んな引き出しを持っているような感じがしますので、成長とともに上手く対応していけるんじゃないですかね」

――これだけのスケールの投手はやはりなかなかいないですよね。
「先ほども言いましたが、私が凄いと思うのはコントロールですね。その要因になっているのが踏み出した膝とつま先。その点をぜひ注目してもらえればと思います」
(取材:西尾文典/写真:編集部)

ホグレルとは?

ホグレル株式会社が提供する力を抜いた状態でマシンの軌道に従って主に肩甲骨や股関節・骨盤周辺を動かすことを目的としたマシン。今年の夏の甲子園では以下の8校が導入するなど、野球界でも広く使われている。

茨城代表  霞ヶ浦高校(4年ぶり2回目)
栃木代表  作新学院高校(9年連続15回目)
東東京代表 関東第一高校(3年ぶり8回目)
静岡代表  静岡高校(4年ぶり25回目)
岐阜代表  中京学院大学中京高校(3年ぶり7回目)
大阪代表  履正社高校(3年ぶり4回目)
島根代表  石見智翠館高校(4年ぶり10回目)
徳島代表  鳴門高校(2年連続13回目)

2016年11月にホグレル硬式野球部が発足。今年2月にはクラブチームとして社会人野球の東京都連盟に加盟し、この9月からは公式戦にも出場予定。相原さんは同チームの監督を務めている。


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