公立校ながらも県の強豪として名を馳せる日立第一。設備が整う私立校とは違い、決して恵まれているとは言えない環境。しかし、毎年創意工夫のある練習で力をつけている。32年ぶりの甲子園を目指すチームに密着した。
ハンデを力に変えろ!
逆境乗り越えナツタイに挑む
限られた環境が選手の覚悟を生む
県下有数の進学校である日立第一が脚光を浴びたのは一昨年の夏。茨城大会で決勝の舞台へコマを進めたのだ。決勝で敗れはしたものの、公立校の可能性を大いに感じさせた。
チームの根幹にあるのが“公立校が私立校と同じことをしても勝ち目はない”という中山顕監督の信念だ。近年、茨城は常総学院をはじめ私立校が上位を占める。日立第一は茨城県の強豪校なら当たり前のように所有している専用グラウンドもなく、校庭は他の運動部と共有。外野のノック時間は限られ、バッティング練習はバックネットに向かって行わざるを得ない。中山監督は「この環境がハンデになっていることは間違いありません。でも、この環境こそが他チームとの一番の違いでもある。だからこそ、違いを生み出さないといけないという覚悟を持たせてくれる。むしろ、この環境に感謝しないといけないのです」と言い切る。毎年創意工夫を加えた練習で選手たちの自主性と能力を育んできた。
合宿で深めた絆感謝の気持ちを胸に戦う
今年も例年通りさまざまな取り組みで、チーム作りを行った。冬季には2度の合宿を敢行。1度目は阿字ヶ浦の民宿に宿泊し、浜辺でのトレーニングや近隣高校と合同練習。2度目は常陸大宮市のロッジにて、自炊をしながら生活。「選手たちは『親に感謝している』と常々口にするが、本当の大変さを知らない。合宿では生活面で“自分自身”と向き合わせる」という中山監督の意図があった。また、昨秋は遠征の帰りに群馬県の『富弘美術館』で絵画を鑑賞。同美術館は事故で手足の自由を失いながら、口で筆をくわえ絵を描いた芸術家の星野富弘氏の作品が展示されている。「今までは野球をできることが当たり前と思っていました。でも、そうではない。1スイング1球に対し、感謝の気持ちを噛みしめながらやらないといけない。美術館に行ってからは『感謝』の意味合いが変わりました」と2年生の木川は精神面の変化を語った。
そして、夏に向け最後の取り組みとして6月に11日間の強化合宿を実施。テーマは“3年生の自立”。強くなるためには3年生がチームを引っ張らなければいけない。共同生活を送ることによって絆を深め、さらに合宿期間中に行われた珂北大会では全ての3年生を選手登録し、最上級生としての自覚を促した。「合宿を通して3年生の意識が変わった」と話すのはキャプテンの島。それまでは島が声を出し、チームを盛り立ててきたが合宿を経て「チーム全体で声が出るようになった」と言う。「苦しい展開でもそれを感じさせない雰囲気を出すのが僕たちのチーム。周りから見たら異常に思われるかもしれないが、異常なぐらいにやらないと僕らは勝てないんです。その雰囲気が出るようになってきた」と島はチームの確かな成長を感じている。
ハンデを力に変え、進化した日立第一。32年ぶりの甲子園出場を目指し、夏に挑む。
創意工夫された主な取り組み
ホワイトボードを使ってプレーの確認
自主性を促すため、練習メニューを選手たちに考えさせる日もある。自分たちに何が足りないのかを考えることはチームのレベル向上に不可欠な要素だ。
意気込みや目的を声にする
グラウンドに一度立ち止まり、練習への意気込みや、選手自身の目的を叫ぶのが日立第一流。常に意志を持って日々の練習に取り組むことができている。
練習の合間に補食を徹底
練習中、マネージャーはご飯を炊き、おにぎりを握る。その数は約50人の部員に対して、1人2個ずつなので約110個。味つけも変える徹底ぶりだ。
チーム内に委員会を設置
チーム内に環境整備委員会、体力向上委員会、学習風紀委員会、分析委員会の4つの委員会があり、それぞれ選手たち独自で考えて活動している。(取材・佐藤拓也、撮影・及川隆史)
日立第一高校野球部
●監督/中山顕
●部長/鈴木寛明
●部員数/3年生15人、2年生20人、1年生18人、マネージャー4人
1927年創立。1985年の夏に甲子園初出場を果たす。2007年よりスーパーサイエンスハイスクールに認定され、2012年からは中高一貫教育が開始された。学業と部活動、文武両道の精神で32年ぶりの甲子園出場を目指す。