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【東海大高輪台】プロ注目の2枚看板を揃えるダークホース

2017.5.1

東京都港区高輪から遠く離れたさいたま市浦和区に総合グラウンドにある東海大高輪台の総合グラウンド

東海大学の付属、系属の高校の中で唯一甲子園出場がないのが東海大高輪台だ。しかし08年には高橋雄輝投手(現・信越硬式野球クラブ)を擁して東東京大会で準優勝、12年の春には初の関東大会出場と近年着実に力をつけている。今年のチームも春の都大会では2回戦で敗れたものの、大型の本格派投手を複数揃えておりその注目度は高い。そんな東海大高輪台の練習を取材した。


港区高輪という都心に学校のある東海大高輪台。校舎に隣接しているのは体育館、武道場、トレーニングルームのみで外で運動をできる施設は一切ないという。野球部を指導する宮嶌孝一監督は同校のOBだが、現役時代はジプシー状態で近くのグラウンドを借りて練習する日々が続いたそうだ。そんな状況が改善したのは04年。さいたま市浦和区に総合グラウンドが開設され、専用の野球場も建設された。00年、大学四年生の時に就任した宮嶌監督もこのことがまず大きかったが苦労もあったと話す。

東海大高輪台高校野球部を率いる宮嶌孝一監督
東海大高輪台高校野球部を率いる宮嶌孝一監督

「グラウンドができたのは大きかったですが、最初は土の状態も良くなくて苦労しました。ネットも低くてボールが外に出ることも多かったです。それでも色々と改善してだいぶ練習しやすい環境になってきました。専用グラウンドもあるなら入学しようと言ってくれる選手も増えましたね。高橋雄輝高橋政貴のバッテリーの代は初めて三年間グラウンドでしっかり練習できた代で、それから結果もついてくるようになりました」

野球部やサッカー部などグラウンドを使う部活の選手達は授業が終わると高輪の校舎からバスで移動してくる。全員が揃って練習を開始できるのは17時過ぎからで、寮はなく遠方から通っている選手もいるため遅くても20時半くらいには練習を切り上げる必要があるそうだ。そのため平日は一つ重点を置いたメニューを行いながら、同時並行でトレーニングなどにも取り組んでいるという。1年生は宮嶌監督が話したように、グラウンドに隣接した小さいスペースでランニングや体力強化のトレーニングを行っていた。

そして2年生、3年生はアップとキャッチボールが終わると四つの班に分かれて練習がスタート。この日はバッティングが中心メニューで、変化球のマシン二ヵ所、ストレートのマシン一ヵ所、バッティングピッチャー一ヵ所の合計四ヵ所で打ち込みを行っていた。その間、ライトの後方では個人ノックを行い、またトレーニングスペースではウエイトも行われていた。

体作りにも積極的に取り組んでおり、専門のトレーナーについてもらって毎日やるメニューが決められているという。エースの宮路悠良投手、二番手の増子航海投手はともに最速147kmを誇る大型本格派右腕で、体作りが進んだことがスピードアップに繋がった大きな要因であることは間違いない。打撃陣もパワーアップを果たして飛距離も格段にアップしたが、宮嶌監督はそれだけでは足りない部分を感じているそうだ。

バッティング練習に取り組む東海大高輪台野球部の選手たち
バッティング練習に取り組む東海大高輪台野球部の選手たち

「冬の間は木のバットで打たせていて、春から金属を持たせたのですが体が大きくなったから間違いなく飛ぶようにはなったんですね。でもそれで選手達が勘違いしたところがあると思います。楽に打つことを覚えてしまって、バッティングが雑になりました。力だけで打っていると結果が出なくなった時に立ち返れる基本がないんですよね。だから今はしっかり強くて低い打球を打つことを徹底させています。強いゴロはきちんとした形で技術がないと打てませんから。練習はもちろんですし練習試合でもあらかじめ必ずゴロを打つ場面を決めておいて、サインを出さずに打つようにしています。中軸の選手でも二打席続けて意図が見えない時は交代するなど極端にやらせていますね」

春の都大会ではエースの宮路が序盤から打ちこまれて実践学園に敗退したが、ピッチングにおいてもパワー重視、スピード重視が裏目に出たという。
「宮路も速くなりましたがそれだけでまだまだピッチングになっていません。中学までは野手が本職だったということもありますが、速いボールを投げたいということに気持ちがいっていたように思います。言い方は悪いですけどスピードと飛距離は本当に麻薬だと思いますね。でもそれでは勝てないので、宮路についても都大会が終わってからフォームをガラッと変えました。平日は本当に自分がつきっきりで見て、週末に練習試合で投げさせて確認するというのを二週間繰り返して、だいぶ形になってきたと思います」

投球練習場でピッチングを行うプロ注目の宮路悠良投手と増子航海投手
投球練習場でピッチングを行うプロ注目の宮路悠良投手(左)と増子航海投手(右)

都内での野球部の知名度も徐々に上がり始め、今年はドラフト候補とも言える投手も擁しているが、甲子園の常連である他の東海大系列校とは状況が全く違うそうだ。そのあたりについても宮嶌監督に話を聞いた。
「うちは“甲子園に行きたい”と言って入ってくる選手ばかりではありません。中学時代のポジションは(バスケットボールの)ポイントガードでしたとか、文化部にしようか野球部にしようか迷っています、といった選手も入部してきます。東海大の縦縞のユニフォームを着たいという気持ちはあるものの、甲子園ばかりではなくただ野球を楽しんでやりたいという思いの選手もいるんです。それは他の東海大の系列校とは違うと思いますね」

グラウンドに貼られている張り紙
グラウンドに貼られている張り紙

現在の部員数は3年生29人、2年生42人、1年生42人の合計113人という大所帯である。「本当に色んな子がいますよ」と宮嶌監督が言うように大学生も顔負けの体格で強い打球を弾き返す選手もいれば、野球部にしては見るからに細身の選手も散見された。ただそのような状況でもあくまで同じ野球部として同じ練習をするのが東海大高輪台の方針だという。それは野球の力量が大きく劣っていても、野球部にとってプラスになることが多いと考えているからだ。

高校から本格的に始めたような選手でも一生懸命努力する子は多いです。それは野球だけでなく授業や普段の生活にも出てきます。プレーする力が劣っていてもそういう選手がいると、他の選手もやらないとと思いますよね。うちはグラウンドが校舎から離れているので、他の先生たちが練習を見かけるようなこともありません。でも野球部の生徒が普段からしっかりしていたら応援しようという気にもなってもらえます。単純に強くするだけなら入部に制限を設けた方が効率も良くなるので良いかもしれませんが、高校野球はあくまでアマチュアスポーツなので楽しんでやりたいという選手も一緒になってやることを選んでいます」

練習中も力の劣る控え部員に対しても分かりやすぐバッティングの技術指導を行っていた宮嶌監督。また宮路投手や増子投手など主力の選手のことよりも、控え選手やサポートしているマネージャーのことを話す時の方が誇らしげだった。17年になる監督生活の中であらゆる葛藤もあったそうだが、一つのチームカラーを作り上げているように見える。東海大高輪台は全員の力で今年も東東京大会に挑む。(取材・写真:西尾典文)

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