食事に対する意識の変化が、野球に対する意識を変えた
前任校を赴任4年目にして20年ぶりに甲子園に導き、DeNAの石田健太選手や日本ハムの宇佐美塁大選手などを輩出した沖元監督。そんな監督の指導を受けたいと高陽東に入学してきた生徒たちが主軸となる新チームは、1年次から食トレで身体作りをしてきた。目指すは12年ぶりの甲子園!
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導入を強く推せるのは瞭然たる実例があるから
「前任校の県工(県立広島工業)の監督を始めた頃、石田健太や読売ジャイアンツに育成で入った和田凌太など、センスがある選手がすでにいたんですが、ただ線が細かった。ちょうどそんなとき、県外の監督から『これからは食事も専門家にみてもらった方がいい』と薦められたこともあって、専門トレーナーによる食トレを希望者で始めたんです。すると効果はテキメンでしたね」と語る沖元茂雄監督。
食トレを始めてひと冬で10キロ増やした石田は、秋の時点ではそこそこいいピッチャーという評価だったが、シーズンが明け試合が始まっていきなり142キロを出した。左で140キロを出すと、すぐにプロのスカウトが見に来た。石田の2つ下で入ってきた宇佐美は中学時代はバリバリのレギュラーというわけでもなく、一軍半、という感じの選手だったという。技術的に注目されていたわけでもなく、普通の中学生が入学してきた、という印象だった。1年生のときから食トレを受け、入学時に65キロだった体重は3年で甲子園に行ったときには85キロまで増えていた。「ウエイトトレーニングをし、食事の指導を受け、あとはバットを振って、というほんとに単純な作業でプロに行ける選手になりましたね」と監督は振り返る。
県工赴任以前より食べることの重要性を感じていた沖元監督は、歴代赴任校でたまごかけご飯をマネージャーに用意させ、各自どんぶり1杯、という補食を練習の合間に取り入れていた。10月から3月のトレーニング期にチーム平均で5キロ増を目標としていたが、補食だけでは3キロ程度の増加がせいぜいだった。しかし食事の指導を取り入れてからはチーム平均5キロ増も達成。明らかに、ただ『飯食うとけ』というのとは違う。食トレの効果を強く実感した。
高陽東はかつて前任の監督が食トレを全員強制でやろうとして失敗していたという経緯があった。沖元監督が赴任してまず専門のトレーナーに講義をしてもらい、指導を受けたい人を希望制で募った。監督自身が前任校で食トレの有効性を身をもって感じている。石田や宇佐美の話は説得力のある材料だった。結果、多くの部員が食トレを取り入れることとなった。
食トレが野球への意識の変化のきっかけになった
「身体という一生の財産を高校時代に作るのは大事なこと」と語る沖元監督は、食トレを始めて選手の意識が変わったことを実感する。「ただ3食をとる、腹が空いたら食べる」というだけのものだったのが、「身体を大きくしたい」という意識を持って食べることで効果が違ってくる。継続して指導を受けることで、3年間意識を高く持って食事がとれるようになっている。しっかりと食事をとり、体育教諭である沖元監督のプログラムでウエイトトレーニングを行い、筋肉量を増やす。それだけでパフォーマンスがワンランクアップする。新チームの部員たちの代より始めているというメンタルトレーニングの効果も相まって、意識の変化は食事だけにとどまらず、自分たちの野球に必要なことを選手たちは常に考え、練習に励んでいるという。
「今年の3年生は僕がここで監督をしているとわかって入ってきた子たち。この子たちに僕の持っているものを全部投入して、うまくいくかどうかはわかりませんけど、気持ちとしては当然狙っていますよ。高校生は、ひょんなきっかけで変わる。食事で身体が大きくなる、というのもあるし、ゲームで何かをつかんで全然違う選手になるという瞬間もある。春から夏にかけてそういう選手が出てくれば、可能性はある。甲子園に出られるチームを作れると思っていますし、プロに行ける選手も出るかもしれない。僕はそういうワクワクした気持ちで指導しています」。
1965年7月20日生まれ。広島県出身。広島商業から順天堂大学へ進学。広島商業〜廿日市西〜宮島工業〜広島工業を経て2014年高陽東の監督に就任。体育教諭
「食トレ」選手の声
食トレを始めるまでは、「食べろ」と言われてもそんなに太らなくていいや、と思っていたという寺地くん。専門トレーナーの話を聞いて、体重を増やすことに興味を持った。
それまでお茶碗1杯だった夕食のご飯をどんぶり2杯食べるまでは寝ないと決め、炭酸飲料やスナック菓子禁止のルールで自らを律し、間食を摂ること、お腹が空いている時間をなくすように心がけ、身体作りに励んだ。体重が増えたことで柵越えのホームランを打てるようになり、球速も10キロ以上アップ。効果を強く感じている。
「理想体重にはすでに達しているので、今後はもっと体脂肪を落として動きやすい身体に引き締めていきます。まだまだ球速も伸びる自信があります!」と語る。
「食トレ」保護者の声
子どもたちの頑張る姿が食トレを支える原動力に!
「野球って頭を使ってするスポーツなので、言われることをするだけじゃ成長しない。食トレの指導を受け、子どもたちが身体作りを自分で考えて食事をとる。このことをきっかけに、何事も『自分で考える力』がついていると思います」と、食トレの効果を保護者会長の山本さんはこう語った。
食トレの導入にあたっては金銭的な負担もあり、安くはないが、高陽東の野球部は基本的に上を目指して入ってくる子が多く、プラスになることには保護者も賛同する方向だ。そのうえ希望制ということもあり、特に反対意見は出なかったそう。家族のサポートも厚く、高台にあって雪も珍しくないという高陽東の厳しい冬の間、日曜日の練習にはお母さんたちが交代で味噌汁を作りに来てくれる。持ち寄りの材料で作る具だくさんの熱々味噌汁で、お弁当タイムは部員たちの身体も心も温まる時間となっている。
管理栄養士のお弁当チェック!
お弁当に「大豆」はどう入れたら良いですか?という質問を受けることがあります。夏場を除けば、すき焼き(煮物)も良いアイディアですね。もう一つのお弁当箱は彩りが良く、美しい。おいしいは「美味しい」と書きます。赤、白、黄、緑、黒(茶)の5色の食材が揃うと、見た目が美しくなるとともに、自然と栄養バランスが整います。
高陽東高等学校
所在地:広島県広島市安佐北区落合南8-12-1
学校創立:1983年
主な戦歴:2016年秋・3回戦、2016年夏・1回戦、2016年春・1回戦