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【多治見】強豪ひしめく岐阜大会を制した公立の普通科進学校(後篇)

2017.1.24

センバツ甲子園の出場校が27日に発表される。21世紀枠の候補校として吉報を待つのが多治見(岐阜)だ。昨年の秋、公立の普通科進学校として39年ぶり(春夏も含めると35年ぶり)に県の頂点に立った多治見は、限られた環境のもと工夫して練習に取り組んでいる。


取材日は1月中旬。40人弱の部員(1・2年生)を3班に分け、打撃練習や筋力トレーニングなどのメニューを約30分ずつでローテーションしていた。ただし前篇で見たように、グラウンドは内野エリアしか使えない。バッティングはホームベース周辺や体育館下を使い、コンパクトに取り組んでいた。

テニスボール打ち

正面から数メートルほどの距離でテニスボールを放り、打者が打ち返す。高低やコース(内角打ちや外角打ち)、打球方向(流し打ちや引っ張り)などの課題を設け、それに合わせた打撃の形を身につける。距離が近いため速球への対応力が上がるし、テニスボールなら詰まっても手が痛くならないので、無意識にインコースを怖がって体が開くこともない。正面から球がくるので、実際の投球の軌道でバッティングできる。

テニスボール打ち

シャトル打ち

バドミントンの羽根(シャトル)を正面から投げ、打者が打ち返す。シャトルは不規則に変化するため、変化球対策としてバッチリ。打者はシャトルのコルク部分をミートし、軽やかな音を響かせていた。場所を問わずできるため、取材日は体育館下のスペースで実施していた。

こうしたテニスボールやシャトルによる打撃練習が生きたのが、昨秋の県大会決勝だ。相手エースのアンダースロー投手らに13安打を浴びせて攻略。しかもその13本は、見事なまでに全て、センターから逆方向に飛んだものだった。変則投手の緩い球を追いかけずに溜めてミートし、狙い通り逆方向へ。高木裕一監督も「狙いを徹底しました。それまでの試合では余分に力んで凡打していたバッターも、逆方向を狙うバッティングに徹してくれて『取り組んできたことをやってくれるな』と感じました」と嬉しそうだ。 アンダースロー投手の球を引きつけて逆方向へ打つのはセオリーとされるが、それを大舞台で実際にできたのだからすごい。この試合でライト前ヒット3本を放った右打者の岡井俊樹選手(2年)は「自分は引っ張るほうが得意ですが、テニスボール打ちのときに外角に投げてもらい、右へ打っていた成果が試合で出ました」と振り返る。佐藤昂気主将(同)も「日々の基本練習の中で、実戦をイメージして取り組んでいます」と言い、その意識が実った格好だ。

塩ビパイプによる素振り

2メートルほどの塩化ビニールのパイプで素振りをする。パイプは細長く、普通に持つ分には特段重さを感じるわけではないが、振ってみると体にこたえる。体幹をきちっと近い、体の軸がしっかりしたスイングでなければ、きれいにしならせて振ることはできない。 

塩ビパイプによる素振り

その他

グラウンド内野エリアでの打撃練習は、前述のテニスボール打ち、塩ビパイプ素振りに加え、斜めからトスされた硬球をネットに打ち込む一般的なティー打撃も取材日のメニューにあった。早打ちによりスイングの力をつける。このほか、体育館下のスペースで器具による筋力トレーニングを実施。守備については、例年であればセンバツ甲子園に関係しないため、シーズンインしてから全体ノックに入っているという。食事の取り組みについては毎週末、保護者が当番制で昼に鍋料理、練習終盤にうどんを作り、部員が平らげる。

筋トレに励む多治見の選手達

公立の普通科進学校として文武両道を目指し、限られた野球環境で練習を工夫しながら、短い時間でも集中して実力をつけてきた多治見ナイン。21世紀枠でセンバツに選ばれれば楽しみな存在だ。昨秋の県大会制覇を「平幕優勝」と高木監督は表現するが、注目される中で今後もコツコツ実力を伸ばし、もっと上の番付がふさわしいチームへレベルアップしていく。(取材・文・写真:尾関雄一朗)

 


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