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筑波大学川村監督が語る「速いボールを投げる条件と方法」(前編)

2018.8.22

ピッチャーにとって大きな武器、それは投げるボールのスピードであるということに異論を唱える人は少ないだろう。一度も速いボールを投げることを目指したことのない投手はきっといないはずである。しかし実際にピッチャーに話を聞いても、なぜ速いボールを投げられるようになったかを的確に答えられる例は多くない。よくあるのは「走り込んだから」、「身体が大きくなったから」という回答くらいである。
そこで今回は筑波大学硬式野球部の監督、そして同大学の准教授として野球の動作解析のスペシャリストでとしても知られる川村卓監督に投手が速いボールを投げるために重要な要素について話を聞いた。


ーーいきなり細かい部分のお話で恐縮なのですが、以前、速いボールを投げることに関しては人差し指と中指の2本の指が重要だというお話をうかがいました。このことについてもう少し具体的に教えていただけますでしょうか。
「速いボールを投げられるピッチャーのリリースについて、速い動きを見ることが可能なハイスピードカメラで撮影したことがあります。それで実際の2本の指の動きを見てみたら、先端がかなり下に向いていたんですね。
何となくボールをリリースするときは指の先端がボールに沿って、反るような動きになっているというイメージがあったのですが、実際は全然違いました。

ただ、以前うちの研究室にも来ていた吉井(理人・日本ハムピッチングコーチ)さんに聞いてみたら、リリースまでボールはずっと指の下にあるイメージとお話していたんですね。
吉井さんのイメージは実際の動きと合っていたんだと思います。
逆に上手くボールを投げられない「イップス」の選手の指の動きも撮影してみたら、リリースする前から指からボールが離れるのが早くて、下向きの力が全く働いていませんでした。

これはどちらかというとスピードよりもコントロールの話になりますが、よくリリースポイントを安定させるということを言いますよね。
でも実際に投げているピッチャーのリリースポイントを座標で取ってみると、前後にも左右にも結構ぶれていて、同じところでリリースしているということはないんですね。
だからコントロールのいい投手というのも、最後の指で調整している部分が大きいと思います。
どれだけ身体を大きくダイナミックに動かしても、ボールに直接最後までその力を伝えるのは2本の指ということなんですね。

あとマウンドの硬さやその日の身体のコンディションは結構変わりますから、そんな中でも安定してパフォーマンスを出せるということも良い投手の条件になります。
メジャー・リーグのスカウトは結構そういうところを見ているそうで、今年活躍している平野(佳寿・ダイヤモンドバックス)は、日本でも球場による成績の差が小さいことが評価されたと聞いたことがあります」


ーーよく速いボールを投げるピッチャーになぜ速くなったのか聞くと「走り込んだからじゃないですか?」ということを聞きます。昔から投手は下半身が重要だという話も聞きますが、そのあたりについてはいかがでしょうか。
「ピッチャーは狙ったところに速いボールを投げる必要がありますから、当然下半身が安定する必要があります。
ピッチングの動きというのは簡単に言うと、安定した下半身の上で上半身が暴れることなんですね。
だから当然下半身は重要です。
チェックする部分として分かりやすいのは踏み出した方の足です。
うちの学生もそうですし、高校生なんかはほとんどがこの踏み出した足が安定していません。
実際にボールを投げるのは上半身の動きなので、腕をしならせるのが上手な選手はそれだけで速いボールを投げられたりするのですが、それを支える下半身がふらついていると安定して速いボールを投げることはできないです」



ーーもう一つよく聞かれるのは「身体ができたからボールが速くなった」ということです。ただ必ずしも身長が高い選手や体重が重い選手が速いボールを投げられるわけではないと思うのですが、身体的な特徴についてはいかがですか。
「単純に言うと手足が長くて、それを上手に使える人が速いボールを投げられるようになります。
ただ、おっしゃる通り背が低くて手足が長くなくても速いボールを投げられる選手はいます。
中日の谷元(圭介)選手や、去年うちのエースだった大場(遼太郎・現JX-ENEOS)なんかは170cmにも満たない身長ですが150キロのスピードボールを投げますから。
そういった選手は何が違うかというと、体幹の使い方なんですね。人間の身体の仕組みをお話すると、背骨ってほとんど回転しないんですけど、胸の上の部分だけは動くんですね。
そして彼らのような選手は体幹が安定していて、胸の上の部分の方を強く縦に動かしているんです。だから背が低くても手足が長くなくても、身体の使い方によって速いボールを投げることは十分可能だと言えると思います。
ただ、「ヤキュイク」の取材でのテーマ(https://www.yakyuiku.jp/article/1493/)でもお話したように、速いボールを投げることの危険性もしっかり理解しておいてもらいたいですね」


大谷投手のような大柄な投手ではなくても速いボールを投げられるということは知られているが、体幹の使い方が重要だということは大きな発見ではないだろうか。
後編では更に速いボールを投げるために重要な体の使い方やトレーニングについてお届けする。
(取材:西尾典文、写真:編集部)

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