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【徳島商】キャッチボールを趣味にしよう!~チームからイップスを出さない指導法~

2024.4.19

33年間に渡って高校野球の指導者を続け、6度の甲子園出場。2023年にはエース・森煌誠を擁して母校・徳島商業を12年ぶりに夏の甲子園出場に導いた森影浩章監督。指揮官は選手たちにどのような指導を行い、どんな練習、どういった野球を実践して甲子園出場を成し遂げてきたのかに迫った「強い「心技体」を育む 我慢力」(竹書房)から、一部を紹介します。


私は普段の指導において、ピッチャーのフォームに関しては、あまり細かい注文はつけないようにしている。ただ、股関節と軸足の動きに関してだけは重要な部位でもあるので、悪い動きをしている場合はその選手とともに改善に取り組む。

股関節が硬いピッチャーには、まず股関節を柔らかくする練習やストレッチなどを行う。また、軸足一本で立ったときに膝が前に折れてしまうピッチャーがたまにいるが、このフォームだと体重移動がスムーズにできないので、膝が折れないフォームに直していく。
右投手で、膝が前に折れると重心も三塁方向に流れてしまい、バッター方向に理想的な体重移動ができない。膝を折らず、なおかつ体が開かないように(横を向いている時間が長くなるように)、いわゆる「ヒップファースト」で重心移動できるように修正していくのだ。

腕の振り方は、よほど悪くない限りあまりいじらない。むしろ私は、腕の振りよりもグローブをしているほうの手の使い方で助言することが多い。
グローブをしているほうの手の指導に関して、昔は「バッター方向にグローブをしている手を突き出し、投げるのと同時にグローブを体のほうに引く」という教えが主流だった。しかし、私はグローブをしているほうの手は、そのピッチャーの腕の振り、体重移動に合った動きをしていれば問題なしと捉えている。
だから、グローブをしている手の動きが、そのピッチャーに合っていないと感じたら、「こうしたほうがいいんじゃないか」と助言することはある。その動かし方にしても、「しっかりバッターにグローブを向けろ」という場合もあるし、「少しグローブの位置を下げたほうがいい」と言ったり、「肘を伸ばせ」あるいはそれとは逆に、「肘を曲げてグローブを自分のほうに向けながら投げたほうがいいんじゃないか」と言ったりするときもある。ピッチャーのフォームは十人十色なので、そのピッチャーにもっともふさわしいフォームとなるように、助言の仕方も選手ごとに変えている。

第3章でお話ししたが、森には正しい重心移動や腕の振りを覚えてもらうために遠投をさせた。外野手がバックホームするときの投げ方や、サードやショートが逆シングルで捕った後の一塁送球の投げ方なども、ピッチャーのフォームを修正する上でとても有効な練習である。
近年、イップスの症状に悩む選手がとても多いと聞く。しかし、いままで私が指導してきた選手で、イップスになった者はひとりもいない。

キャッチボールの指導では、「胸に投げろ」「捕りやすいボールを投げろ」という細かい指示が多い。でも、「ここに投げろ」とあまりに細かい指示を出すと、高校生は「ちゃんとやらなければ」と委縮してしまう(言われた相手が指導者や先輩だった場合はなおさらである)。だから私は、キャッチボールのときや内野手の送球などに関しても、「このあたりでOK」という言い方しかしない。

野球の基本はキャッチボールである。私は選手たちに、いつも「キャッチボールを趣味にしろ」「時間があったらキャッチボールをしろ」と言っている。投手、野手を問わず、いいボールを投げるためには、キャッチボールが何よりも重要なのだ。

(続きは書籍でお楽しみください)

【目次】

第1章
徳島商と徳島の高校野球の歴史
「攻めダルマ」蔦文也監督率いる池田の野球 ほか

第2章
私の球歴~野球との出会いから指導者となるまで~
小松島で春夏計4回甲子園に出場~センバツ出場が多かった理由~ほか

第3章
名門復活への道~何かに囚われない、森影流指導論~
適材適所を見抜く力~エース森をいかに見出し、指導したのか~ほか

第4章
徳島商の練習、戦術、セオリー
徳島商の特殊なセオリー ほか

第5章
徳島商と高校野球のこれからを考える
馬淵史郎監督の采配には迷いがない ほか


著・森影浩章(徳島商野球部監督)
竹書房
定価1980円+税


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