トレーニング

元プロ野球チームの名トレーナー直伝 圧倒的にケガを少なくする身体の作り方(3)

2016.8.25

 投球フォームのチェックポイントを挙げ、正しい動作を繰り返すことが傷害予防につながるという、くまはら接骨院の熊原稔院長。肩や肘を痛めてしまうと、どうしてもその部位に着目してしまうが、足から始まる運動連鎖を理解し、肩や肘に大きな負担のかからないフォームで投げることが一番大切である。

 足首の柔軟性や筋力、指で地面をとらえる把持(はじ)力などがまず土台となるが、そこから膝、腰へと力が連動していく中で気をつけたいことや、よく見られる傷害などについて解説していただく。

■フォームを支える土台となる下半身


 正しい立ち位置で投球動作を行うこととして、軸足でしっかりと身体を支えているかどうかをチェックするのですが、まれに軸足が最初から曲がっている選手を見かけます(図1)。軸足が曲がっているとお尻が下に落ちてしまい、骨盤が後ろに傾いてしまう後傾を起こしやすく、姿勢が崩れてケガをするリスクが高くなります。軸足が曲がった状態で骨盤の位置を正しく保つためには、よほど背筋が強くないと維持できません。筋力の弱い選手が見よう見まねでプロ野球投手のフォームなどを真似すると、ケガをしてしまうことがあるため注意が必要です。


 足関節は直接地面と接し、地面の反力を利用して力を生み出す過程において、よりよい機能性が求められます。足関節の柔軟性を高めるためには、関節可動域(関節の動く範囲)を大きく広げること、段差などを使ってつま先立ちと踵下ろしを繰り返して足の前後の動きをよくしたり、しゃがみ込んだときに踵が浮いてしまわないように(図2)屈伸動作を繰り返したりします。よく立った状態でつま先を地面につけて足首を回す運動を行いますが、これも足関節の機能性からいえば不十分です。本来であれば座った状態で足首を手で保持し、ゆっくりと左右ともに回すようにするとより大きな可動域が得られるでしょう。手指と足指を握手するような感じで保持して回すようにすると、指先にまで神経がいきわたりよりスムーズな運動連鎖が期待できます。足関節が硬い状態のままだと、運動連鎖によって膝関節や股関節などに影響が及び、動きの範囲が制限されてしまうことにもつながります。普段のウォームアップやクールダウン同様、足首の柔軟性を高めるトレーニングも日頃から行うよう習慣づけましょう。


■器質的な痛みがあると投球フォームは崩れる
 足首から始まった運動連鎖は膝、股関節、体幹へと続いていきます。膝は体重を支える荷重関節であり、中にはクッションの役割を果たす半月板が存在していますが、こうしたところをもともと痛めていたり、膝周辺部の組織に何か問題を生じたりしている場合は、投げるときに力が外に逃げてしまう傾向が見られます。軸足であれば力の方向が前方に進まなければならないときに、膝が折れて下に沈んでしまったり、踏み込み足であれば地面に足が接地し、投げるときに膝が外側に傾いていわゆる膝が割れた状態になり、身体の開きが早くなってしまったりします。このように膝に痛みを抱えた状態でムリして投げ続けると投球フォームは崩れていきますし、リリースポイントがバラバラになるとコントロールもつかなくなります。逆にどのような球種でも同じフォーム、同じリリースで投げることが出来るとバッターとしてはとても打ちづらくなります。

 膝に何らかの傷害を抱えている場合は、まず痛みの程度を確認し、練習量をコントロールしながら不安部位を改善させることから始めましょう。膝は体重を支える荷重関節であり、この関節がうまく機能しなければ、よいパフォーマンスは臨めません。痛みの程度が軽減してきたところで、次に行うことは膝周辺部の筋力強化です。


■膝と股関節の働きをよりよくするためのトレーニング


 膝周辺部のトレーニングとしては、ランジ動作で膝とつま先が同じ方向に向くようにして行うようにします(図3)。筋力的に力のある選手はウエイトを持った状態で行っても構いませんが、あまり行ったことのない場合や筋力的にまだまだ弱いと感じる場合は、踏み込んだとき、身体がぶれないように自分の体重を支える自重トレーニングで行います。つま先がまっすぐで膝が内側に入ってしまう「ニーイン・トゥアウト」の状態では膝の内側に過度なストレスがかかって痛めやすくなりますので、この状態にならないよう膝とつま先の向きが同じ方向になっているかを確認しながら行いましょう。またランジ動作にひねりを加えたツイストランジを行うと、股関節の屈曲、内転、内旋といった動きが自然と取り入れられるので、股関節の機能性を高めるためにも行っていくようにするとよいでしょう。




 またさまざまな用具が準備できるのであれば、ジムボールを背中にはさんで行うスクワット動作(図4)や地面に手をついてジムボールを足で引っかけて行うレッグカールなど、不安定な状態の中でバランスを保ちながら自分の身体をコントロールするトレーニングなども行っていくと良いでしょう。野球選手はよくお尻周りを大きくと言われますが、これは運動連鎖によって地面から得られたエネルギーをしっかりとお尻周りで受け止めて、股関節の動きを使って上肢に伝えていくようにしたいからです。股関節周辺部の筋力が弱いとせっかく得られたエネルギーをいかせず、ボールにうまく力が伝わらない、いわゆる「抜けた」ボールになってしまいます。チューブなどを使って股関節の内側、外側を鍛えるようなトレーニングも有効です。


取材・構成:西村典子(東海大学硬式野球部アスレティックトレーナー)
監修:熊原稔

熊原実
(株)クマハラアスリートサポート代表、くまはら接骨院・院長
阪神タイガース・チームトレーナー(1992~2001年)、新庄剛志パーソナル・トレーナー(2001~2002年)、東北楽天ゴールデンイーグルス・コンディショニングディレクター(2010~2014年)等、長年にわたってプロ野球選手のトレーナーを務める。2013年にはWBC・侍ジャパン日本代表トレーナーとしても帯同。現在はトップアスリートからジュニアまで幅広い選手への治療・サポート活動を行う。日本体育協会公認アスレティックトレーナー。


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