トレーニング

投動作とは「ボールに方向とスピードを与え、空中に発射させる運動」|140キロ投手育成論(1)

2023.8.28

球速アップのカギは「最大並進運動」

ボールを投げる動作は、並進運動(体重移動)と回旋運動の組み合わせによって行われる。投手の場合は、「捕手方向に真っすぐ進む動き」と、「前足の股関節を基点にして身体が回転していく動き」と、表現することができる。

野手の送球は並進運動が小さく、回旋運動が主となる。真っすぐ進む動きが小さくても、フットワークでエネルギーを生み出すことができるからだ。状況によっては、肘から先のしなりを使ったスナップスローでも対応ができ、並進運動に頼る必要がない。

一方、投手の投球は「並進運動が命」と言ってもいいぐらい、大きな役割を果たす。一歩の踏み出しで大きなエネルギーを作るには、並進運動こそが重要なカギを握る(写真1)。


写真1

プロ野球で活躍する一流投手に見られる共通点は、並進運動がじつに長く、横を向いている時間が長いことだ。右投手であれば、自分の胸が三塁側に向いた状態で、捕手方向に移動ができる。日本を代表する投手である山本由伸投手(オリックス・バファローズ)や佐々木朗希投手(千葉ロッテマリーンズ)はお手本のような並進運動を実践しているので、三塁側からの映像や写真を見てほしい。打者から見たときにも、身体全体が“ググッ”と迫ってくるような圧を感じるはずだ。

感覚的な表現でたとえるのなら、野手の送球は「イチ、ニ、サン」であるが、投球は「イチ、ニー、ノー、サン」となる。足を上げてから、捕手方向に身体を“グーッ”と進めていく動きが入ってくる。いわゆる、「間(ま)」とも表現される動きだが、この間があるからこそ、強い球を放ることができる。

私は、理想的な並進の動きを、「最大並進運動」と名付けている。胸を三塁側に向けた状態(左投手は一塁側)で、捕手方向にどれだけ真っすぐ移動することができるか。もちろん、その後の連動を無視して、やみくもに大股で進めばいいわけではない。次の回旋運動につながるための並進運動を実現できれば、おのずと球速は上がっていく。

最大並進運動を手にすれば回旋運動は自然に起きる

投球動作は、並進運動と回旋運動の組み合わせによって成り立つ。

と、説明したが、極論を言えば、「最大並進運動を手に入れることができれば、回旋運動は勝手に起きる」と、私自身は考えている。

なぜなら、「ボールを投げたい」という意識さえあれば、どんな投手でも本能的に身体を回して、腕を振ろうとするからだ。特に、「ストライクを取りたい」と思うほど、胸を早く開いて、正面を向いて投げようとしがちだ。
ダーツを思い出してほしいが、的を狙うときには、自分の胸を正対して構えるのが普通である。このほうが、両目で的を見ることもできるため、コントロールが付けやすい。すなわち、コントロールだけを考えれば、胸を早めに開いたほうが狙いやすい。
それでも、投手がわざわざ横向きの体勢から投げ始めるのは、最大並進運動のエネルギーを生み出すため。横向きに進むことで、身体が回転していくときに、「捻転」とも言われる捻りの力を得ることができる(「捻転」については第4章で詳しく)。並進運動は投手というポジションの特殊技術でもあり、「並進運動の良し悪しがボールの質を決める」と言っても過言ではないだろう。

次回「最大並進運動のカギは軸足の使い方にあり」に続きます。

*具体的なトレーニング方法は本書の第二章からご確認頂けます。



書籍情報

著・塚原謙太郎
竹書房
定価1800円+税

関連記事

  • 1
  • 2


PICK UP!

新着情報