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【夏密着】幕張総合/OBの想いを背負い初の甲子園を目指す

2021.7.11

幕張総合、密着記事3本目は、コロナで甲子園を失ったOBの想いにフォーカス。選手たちの頑張りと成長を誰よりも近くで見てきたOBたちはいま、現役メンバーを「幕総史上最強のチーム」と呼び、心からのエールを送る。



2020年度主将の水上は、小柄な体つきながら優れた洞察力で市川をリードするキャッチャーだった。
2020年は高校球児にとって、高校野球関係者にとって、そして高校野球を愛するすべての人にとって、忘れられない年になった。春の選抜高校野球大会の中止と、それに続く夏の全国高校野球選手権中止。たった3年間しかない高校生活。そのうちの1年がコロナウイルス感染症によって奪われた。

野球だけではないと言われればそうだ。すべての部活、すべての人が等しくその時間を奪われ、みなが苦しい生活を強いられた。しかし、そのなかでも今回は、2020年に高校3年生という1年間を過ごした彼らと、それを支えた人たちにスポットを当てたいと思う。

幕総史上初の甲子園に行ってほしい! 2020年度主将・水上爽太、市川日南太



2021年、千葉県でも注目を集める公立校、千葉県立幕張総合高校野球部、通称「幕総」。創立20年余と決して歴史は長くない学校だが、近年シニアチームからの入部者も増え、着実に力をつけているチームの一つだ。2021年度はNPBスカウトも注目する四番村山亮介を軸とした、打撃力のあるチームに仕上がっている。

「僕たちの期待も背負って、ひとつでも多く勝ち上がってほしい」と話すのは、村山たちの1学年上、2020年度チームの主将を務めた水上爽太。現在は大学に進学し、なかなか慣れないというオンライン授業を受ける毎日だ。水上は2020年、何を思いながらチームを最後までまとめたのだろうか。

「甲子園はなくても、独自大会などで大好きな野球ができると思い感謝していました。ただ、ほかの部活は早々に3年生が引退していたにも関わらず、野球部だけは大会が後ろ倒し。進路に対しての不安はありました。その不安から、チームの意識がバラバラになっていく感じはしていましたね」。

幕張総合高校は進学率も高く、水上のように高校で野球生活に区切りをつける者が大半だ。最後の1年にかける思いも強くあったことだろう。幕張総合高校だけでなく、彼らのように何を目標にすればと、自分の立ち位置を見失ってしまった選手が全国にいるはずだ。

「大会に近づくにつれて、一つでも多く勝ちたいとチームがまとまったのは心からよかったと思えています」という水上。今は幕張総合高校野球部の学生コーチとして、週2回ほどグラウンドに顔を出し、後輩たちの指導に当たっている。


現在駒澤大学野球部1年生の市川。サイドスローから繰り出される速球で、多くの打者を翻弄した。
もう一人、2020年の軸となる選手に話を聞いた。現在は駒澤大学野球部で奮闘する市川日南太だ。

「大学で野球を続ける予定でいたので、最後ではないとわかりながらも、やっぱりチームが同じ方向を向けていないというのは感じていました」と話す市川は、リリースポイントの見えにくいサイドスローで打者を翻弄するエースピッチャーだった。

「そんな中でも、柳田監督は指導を緩めることはありませんでした。もともと幕総にはたくさんの大人が訪れるのですが、僕はとあるトレーナーさんと出会ったことで球速が上がり、大学でも続けられるほどになれた。夏の大会はないからもう終わり、と線引きをしなかった柳田監督には本当に感謝しています」。

2020年、野球だけでなく多くの部活にとって「最後の大会」が消えた1年だった。早々に引退し、進学に励む3年生も多かったなか、目標を見失うこともあっただろう。そんな逆境も乗り越え、水上や市川のように幕総の3年生は独自大会に向けて結束を高めていった。

「今でも、1勝するたびにOBのLINEグループは大盛り上がり。みんな応援しています。幕総史上初の甲子園にぜひ進んでほしいです」(水上)。

コーチから見た今年の幕総 元コーチ・手塚宇宙、花坂凛太朗


「今年はやっぱり、幕総史上最強のチームに仕上がっているはず。期待しています」と話す手塚は、昨年まで同校でコーチを務め、現在千葉県高等学校臨時教諭として他校に勤務している。同じくコーチを務めていた花坂と同学年の幕総OBで、二人は柳田監督の右腕として指揮を執っていた。


現在は千葉県内の高校で体育教諭として教鞭を執る手塚。
昨年の3年生に向けては、「かわいそうという気持ちしか浮かんでこないくらい、彼らが落ち込んでいたのを見ています。3年最後の大会に対して、どれだけの思いや熱量をかけて臨んでいるかを、僕たちは身をもって知っている。それがなくなってしまった3年生になんと声をかければよかったのか、今でもわかりません」と語る手塚。チーム編成を考え、実際に練習試合などでは指示を出し、選手たちをまとめてきた。選手たちと年齢も近く、親しみやすい兄貴分として接してきたからこその苦悩があったのだろう。


手塚と同学年の幕張総合高校野球部OB、花坂。チームを笑いで盛り上げていた。
「だからこそ今年は甲子園に行ってほしいという思いです」と切り出したのは花坂。ムードメーカー的存在で、選手やマネージャー、来客対応も積極的に行う明るいキャラクターだ。

「2020年度に悔しい思いをしたOBももちろんですが、卒業生全員が注目している今年のチーム。柳田監督を甲子園で男にしてほしいんですよ」(花坂)。

パワフルな幕張総合高校が猛進


6月下旬。幕張総合高校野球部を訪れた日は、背番号発表の日だった。3年生は24人。全員がベンチに入ることはできない。キャプテンの沖崎、扇の要である村山、そしてチームの主力バッター正部と柳田監督で協議し、背番号を決めたという。

「全員を入れてあげたい。全員が頑張っている。でも、1つでも多く勝ちたい。そこに最適なメンバーを選びました」と切り出す柳田監督。一人ひとりの名前を呼ぶ声には、熱がこもっていた。

「呼ばれなかった者も、これで終わりではない。ベンチに入れなかったからもう練習を終わりにするのではなく、全員で勝ちに行こう」(柳田監督)

壮絶な2020年度を経験し、先輩の涙を見ている今のチームに、迷いはない。先輩やコーチたちの思いを一心に受け止め、高校最後の大会に臨む。


1枚ずつキャプテン沖崎から手渡される背番号。2年生2人を含む20人で夏に挑む。


(取材・文・撮影/山口真央)


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