幕張総合、密着記事3本目は、コロナで甲子園を失ったOBの想いにフォーカス。選手たちの頑張りと成長を誰よりも近くで見てきたOBたちはいま、現役メンバーを「幕総史上最強のチーム」と呼び、心からのエールを送る。

野球だけではないと言われればそうだ。すべての部活、すべての人が等しくその時間を奪われ、みなが苦しい生活を強いられた。しかし、そのなかでも今回は、2020年に高校3年生という1年間を過ごした彼らと、それを支えた人たちにスポットを当てたいと思う。
幕総史上初の甲子園に行ってほしい! 2020年度主将・水上爽太、市川日南太
2021年、千葉県でも注目を集める公立校、千葉県立幕張総合高校野球部、通称「幕総」。創立20年余と決して歴史は長くない学校だが、近年シニアチームからの入部者も増え、着実に力をつけているチームの一つだ。2021年度はNPBスカウトも注目する四番村山亮介を軸とした、打撃力のあるチームに仕上がっている。
「僕たちの期待も背負って、ひとつでも多く勝ち上がってほしい」と話すのは、村山たちの1学年上、2020年度チームの主将を務めた水上爽太。現在は大学に進学し、なかなか慣れないというオンライン授業を受ける毎日だ。水上は2020年、何を思いながらチームを最後までまとめたのだろうか。
「甲子園はなくても、独自大会などで大好きな野球ができると思い感謝していました。ただ、ほかの部活は早々に3年生が引退していたにも関わらず、野球部だけは大会が後ろ倒し。進路に対しての不安はありました。その不安から、チームの意識がバラバラになっていく感じはしていましたね」。
幕張総合高校は進学率も高く、水上のように高校で野球生活に区切りをつける者が大半だ。最後の1年にかける思いも強くあったことだろう。幕張総合高校だけでなく、彼らのように何を目標にすればと、自分の立ち位置を見失ってしまった選手が全国にいるはずだ。
「大会に近づくにつれて、一つでも多く勝ちたいとチームがまとまったのは心からよかったと思えています」という水上。今は幕張総合高校野球部の学生コーチとして、週2回ほどグラウンドに顔を出し、後輩たちの指導に当たっている。

「大学で野球を続ける予定でいたので、最後ではないとわかりながらも、やっぱりチームが同じ方向を向けていないというのは感じていました」と話す市川は、リリースポイントの見えにくいサイドスローで打者を翻弄するエースピッチャーだった。
「そんな中でも、柳田監督は指導を緩めることはありませんでした。もともと幕総にはたくさんの大人が訪れるのですが、僕はとあるトレーナーさんと出会ったことで球速が上がり、大学でも続けられるほどになれた。夏の大会はないからもう終わり、と線引きをしなかった柳田監督には本当に感謝しています」。
2020年、野球だけでなく多くの部活にとって「最後の大会」が消えた1年だった。早々に引退し、進学に励む3年生も多かったなか、目標を見失うこともあっただろう。そんな逆境も乗り越え、水上や市川のように幕総の3年生は独自大会に向けて結束を高めていった。
「今でも、1勝するたびにOBのLINEグループは大盛り上がり。みんな応援しています。幕総史上初の甲子園にぜひ進んでほしいです」(水上)。
コーチから見た今年の幕総 元コーチ・手塚宇宙、花坂凛太朗
「今年はやっぱり、幕総史上最強のチームに仕上がっているはず。期待しています」と話す手塚は、昨年まで同校でコーチを務め、現在千葉県高等学校臨時教諭として他校に勤務している。同じくコーチを務めていた花坂と同学年の幕総OBで、二人は柳田監督の右腕として指揮を執っていた。


「2020年度に悔しい思いをしたOBももちろんですが、卒業生全員が注目している今年のチーム。柳田監督を甲子園で男にしてほしいんですよ」(花坂)。
パワフルな幕張総合高校が猛進
6月下旬。幕張総合高校野球部を訪れた日は、背番号発表の日だった。3年生は24人。全員がベンチに入ることはできない。キャプテンの沖崎、扇の要である村山、そしてチームの主力バッター正部と柳田監督で協議し、背番号を決めたという。
「全員を入れてあげたい。全員が頑張っている。でも、1つでも多く勝ちたい。そこに最適なメンバーを選びました」と切り出す柳田監督。一人ひとりの名前を呼ぶ声には、熱がこもっていた。
「呼ばれなかった者も、これで終わりではない。ベンチに入れなかったからもう練習を終わりにするのではなく、全員で勝ちに行こう」(柳田監督)
壮絶な2020年度を経験し、先輩の涙を見ている今のチームに、迷いはない。先輩やコーチたちの思いを一心に受け止め、高校最後の大会に臨む。

(取材・文・撮影/山口真央)