選手たちが取り組む具体的なチャレンジは、数字と向き合いながら明確な目標を掲げてのトレーニングを通じ行われている。東北の悲願である全国制覇、日本一の達成に、仙台育英はチームのスケールアップとパイオニア精神で挑む。
長打は飛距離か打球速度。どちらを伸ばしていくかは選手に委ねる
リポート前編→この秋、東北大会制したチームに須江航監督がチャレンジを求める理由ひたすらに打ち続ける選手たち。それは秋に足りなかった「チャレンジ」を取り返す姿であった。須江航監督がいう。
「今は全部それに充てる状態ですよ」
取り組んでいたのは「数字と向き合うこと」。具体的にはまず身体のサイズアップ。そして飛距離、あるいは打球速度のアップ。いずれも長打を狙うものであり、選手としてのスケールアップを目指すものだ。
「長打は飛距離か打球速度。飛距離が出れば外野の頭を越える長打やホームランになる。打球速度が速ければ一塁線、三塁線、左中間、右中間を打球が抜けていき長打になります」
飛距離と打球速度のどちらを選ぶかは選手に委ねられている。
「パワーではなくスピードがセールスポイントだ、という選手もいますが、高校野球は金属バットを使っているので、サイズがない選手でも、一定以上の長打が出ると思います。だから自分のプレースタイルや選手としての終着点を考えて、飛距離か打球速度のアップを選ぶように伝えていますね」
飛距離や打球速度を上げるには、ウエイトトレーニングだけではなく、技術の工夫や柔軟性を高めるトレーニングからアプローチするのも有効である。自分のフィジカルやプレースタイルに合った鍛え方をすれば長所を損なわずに長打を打てる力、能力を見つけることは可能だ。その取り組みを考えずに最初から自分の可能性を狭めるのはもったいない。

たとえば主将の島貫丞は、サイズ的に大きな方ではないこともあってか「自分はホームランを狙うタイプではない」と割り切るが、打球速度アップを通じて長打を増やそうともしている。
「飛距離を伸ばす方法は、ホームラン以外はポジショニングによってはヒット性の打球が捕球されることもあります。でも打球速度が速ければ、ポジショングにハマっても野手の間を抜ける可能性があると思ったのも、打球速度のアップを選んだ理由です」
目標を達成すべく、スクワットを中心とした下半身の強化メニューにも意欲的に取り組んでいる。
固定観念を捨て、戦い方もスケールの大きさを求めていく
同様に、結果を出した投手陣もさらなる「出力のアップ」を目指している。わかりやすくいえば、まずスピードのアップだ。秋にエースとして活躍した伊藤樹も、夏までに最速を現在の147キロから150キロ台に到達させたいという。秋に足りなかったものへのチャレンジの成果を見せるのは、春。そして夏。須江監督はこうしたチャレンジの先に東北勢初の甲子園優勝が見えてくると感じている。
「これまで東北勢は何度かチャンスがあっても甲子園で優勝ができなかった。仙台育英も3回決勝で敗れています。だから、今までにはない取り組み、チャレンジをしていった先にしか優勝、日本一の達成はないと思います。固定観念を捨て、戦い方もスケールの大きさを求めていかなくてはならない。優勝するチームは何か新しいものをつくりだす、パイオニアであるもの。私はチームには〈旬〉があると思っています。1年間の中での旬もあるし、もっと大きなくくりでの旬もある」
「もっと大きなくくり」とは言い換えれば時代、時代で「一世を風靡」したり「黄金時代」と呼ばれるような活躍をしたチームのことだ。たとえば「やまびこ打線」で高校球界に革命を起こした池田、KKコンビを軸とした時代のPL学園などは、その典型である。
「取り組みの先に、そういった〈旬〉の要素が出てくるようなチャレンジをしていきたいですね」
高校野球界で、仙台育英が時代を変える、あるいは時代を象徴するインパクトを見せ、〈旬〉のチームとなる日は来るか。冬のチャレンジの成果を楽しみに待ちたい。

※文中一部敬称略
(取材・文/田澤健一郎 撮影/田澤健一郎・Timely! WEB 編集部)