トレーニング

プロスプリントコーチから学ぶ、動画と数字を用いた走力アップメソッドの本質

2018.11.1

「正しい動作改善を行えば必ず速く走ることができる」というスプリントコーチの秋本真吾さん。陸上選手としての経験をもとに、現在は小学生からプロ野球選手まで幅広い年代・カテゴリーの人たちにランニング指導を行っています。そんな秋本さんが多くの人に伝えていきたい走りの技術論と方法論とは?


動画をフルに使い、感覚ではなく技術論に焦点を当てる

ーー指導の現場を拝見すると、動画をすごく多用していますがその狙いはどこにありますか?

秋本:実際の実技指導では選手たちのランニングフォームを動画で撮影し、客観的に動きを確認する作業を常に行うようにしています。例えばランニングフォームが崩れていることを選手に指摘しても、「いや、僕はいわれたとおりにやってます」とそのズレをその場で感じられない選手も多くいます。そういう選手には後から自分が走っている動画を見せて一緒に確認してもらい、自分の感覚と実際の動きのズレを「目で見て」感じてもらい、修正していくようにすりあわせます。理想は指導者が実際に走って、フォームを見せることが一番なのですが、それができなくても理想的な選手の走っている映像で正しいフォームを確認したり、指導する選手の映像を撮影して、その場で修正点を挙げることができれば正しいランニングフォームに近づけることが可能となります。

自分はこの「動画」を用いて指導する、ことをかなり重要視しています。言葉だけで言われるよりも、映像を見ることで一気に腹落ちすることもたくさんありますからね。
セミナーでは「どのように映像を撮影して、その場でレクチャーしていくか」ここに焦点を当てて、皆さんの日頃の指導に役立てられるメソッドを余すことなくご提供したいと思います。

ーー野球の練習でも走りのトレーニングをよく見かけますが、秋本さんから見てどのように感じますか?

秋本:決められた距離を一定のタイムで走るランニングの光景は普段の練習でもよく見かけますが、ストップウォッチを持っている指導者の多くは選手を励ましたり、ハッパをかけたりしているだけで、ランニングそのものの技術的な指導というのはあまり意識されていないように感じます。規定タイム内に走りきることができても、その選手のランニングフォームが崩れた状態で走っていては「走力アップ」という観点はなくなり、「持久力向上の要素」に偏ってしまいます。走りこみそのものの否定はしませんが、どの体力要素を鍛えるのか、走力アップを目的に走るのであれば、その技術を追求していくことが最も大切なことではないかと思います。

ーー座学では研究データに基づくエビデンスをベースにした技術論をレクチャーされると聞きました。

秋本:わかりやすい数値を使って、走る前と後では何が変化したのか?を理解していくことが大切だと思っています。選手の主観として「ただ何となく足が速くなった」というだけでは、実際に何が足を速くしたのかを知ることはできません。座学ではランニングに関する技術を学んでいただくのですが、ランニングに関する最新の研究データなどをリサーチして、常にアップデートしながら、指導現場での選手のデータとつき合わせて、意識的に数字を多く入れるようにしています。ここから導き出される方法論について、実技の前にまずその理論を頭で理解してもらいたいと思っています。「正しい理論を知っているか知らないか」の差はパフォーマンスに大きな影響を及ぼすからです。「なぜ足が速くなるのか?」を頭で学んでから、その後に実技を行うとより理解が深まります。

技術を支える「姿勢」の重要性

ーー実技の指導の際に伝えていきたいことは何でしょうか?

秋本:スピードアップするための絶対的な技術論として「足の回転×足の歩幅」というものが挙げられます。ただしその技術を上げる前に重要なポイントとして姿勢をよくすることが大切です。「回転×歩幅」の技術レベルを上げようとしても、もともとの姿勢が崩れている状態では効率的な走り方に結びつかないからです。実際の指導現場では、まず選手たちの姿勢を改善することから始めるようにしています。ただし「姿勢をよく」といっても小学生はピンとこないことも多いので、「身長を測るときのように背筋を伸ばす」と言ったり「串が刺さっているようなイメージで」と言ったり、いろんな表現方法で相手がイメージできるように心がけています。 よく、「プロの選手と小学生たちの子供では指導する内容が違うのでは?」と聞かれるのですが、実は全く同じなのです。競技レベルが高くなればなるほど、技術指導も難しくなると思いがちですが、どのカテゴリーの人たちにも同じ内容をわかりやすく、シンプルに伝えることを意識しています。

ーー正しい動作を相手に伝える、理解してもらうということが重要なのですね。

秋本:そうですね。速く走っている人を見ていると腿を高く上げていたり、地面を蹴って走ったりしているように見えるため、「腿を高く上げなさい」と指導を受けてきた人も多いと思います。ところが実際にランニングフォームを分析してみると実は腿を上げているのではなく、地面からの反発力を得られるように腿を強く下ろしていることがわかります。このように何となくそう見えるというものを、キチンと言葉と時には映像で説明し、正しい動作が再現できるように導くのがスプリントコーチの役割です。足が速くなるための理論があり、それができるように主観や感覚だけではなく動画などの客観的な視点から選手たちに理解してもらい、理想に近づけていくことが大切なのです。

ーー最後に、今後の活動を通して、どのようなことを伝えていきたいですか?

秋本:足が遅いという選手はそもそも「速く走るための走り方」が分からないという場合がほとんどです。コンプレックスを持つようになると、走ることが好きではなくなりますし、自信がなさそうにプレーします。速くなる走り方がわかって、自分でやってみて、前までの自分よりも速く走れるようになると、それだけで「やればできる!」と自分に自信がつくようになります。その自信が一つのきっかけとなり、走ることだけではなくその他のことにもどんどん前向きに取り組む姿に変わっていくのを見ると本当に嬉しくなりますね。「足を速くする」ことはそのような効果もあるんだよ、ということを今後も多くの人に伝えていきたいですね。

日本記録を更新するために日々陸上に明け暮れた選手時代よりも、スプリントコーチとして活動する現在が楽しくて仕方がないと語る秋本さん。Timely! Performance Labではランニングを一つのきっかけとして、他のことにおいても自信を持ってほしいという秋本さんの指導法を実際にその場で体験できる機会をご提供いたします。(聞き手:西村典子、写真:秋本氏提供)

第1回「Timely! Performance Lab」 プログラム内容

『明日から足が速くなる!走力アップにおけるスキル&トレーニング最前線』

【1】秋本真吾氏「パフォーマンスにつながる効率的なスピードアップメソッド」
14:00-15:00 座学 
15:10-15:55 実技

【2】塚原謙太郎氏「オフシーズンにおける走力アップの身体づくり」
16:10-16:55 座学
17:05-18:05 実技

【3】パネルディスカッション、質疑応答(コーディネーター:西村典子氏)
18:15-18:45

開催概要
日時:11/24(土)14:00〜18:45(13:30〜 受付開始)
場所:東京リゾート&スポーツ専門学校(東京都豊島区)
参加費:一般10,000円 学生8,000円

講師プロフィール

秋本真吾氏
1982年生まれ、福島県出身。2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。200mハードル元アジア最高記録、元日本最高記録保持者。ハードル選手でありながら、100mのベストタイムは10秒44。13年からスプリントコーチとして、プロ野球選手やサッカー選手など現役トップアスリートから子供達の走力をアップさせる指導を行っている。



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