学校・チーム

『監督からのラストレター』履正社高校/岡田龍生監督

2021.2.19

前年夏に全国制覇を達成した先輩たちを間近で見てきた3年生たち。「さあ次は自分たちの番だ」と意気込んだ2020年、頂点を目指す機会を見えない敵に奪われた。優勝校として名前を残すことはできなかったが、甲子園交流試合では強豪星稜に圧勝。改めて「履正社強し」を全国の高校野球ファンに印象づけた。(書籍『監督からのラストレター』から引用)


胸を張れる大人になれ

夏の甲子園優勝の翌年だった2020年。当時は試合に出られなかった者も「さあ次は自分たちの番だ」と、意気込んで秋の近畿大会はベスト4まで勝ち進み、出場が決まっていたセンバツでの躍動を誓った者も多かったはずです。今でも取材に訪れる方には「甲子園があったら、優勝できていたかもしれませんね」と言われます。確かに、優勝を経験したレギュラーもいたし、再び頂点を狙える力はあったかもしれません。

1人の野球部監督として見れば、そのチャンスを失ったことは残念でしたが、当時の状況からすると、とても野球をやれるとは思えませんでした。私は学校の全運動部を総括する立場にいて、1人の教員として見ても、他の運動部の子たちがつらい思いをしているところも見てきました。ちょうど同じ頃に剣道部も全国大会の中止が決まっていて、〝野球部だけが"という状況ではなかったのです。それ以上に、世の中は我々が思う以上に危機的な状況でした。仕事を失い、明日食べるものすらない人もいる中で、自分たちはまだご飯は食べられている。野球ができるのは生活があっての話で、まずは周りに目を向けて、もっと周囲の状況を知ってもらいたいと思ってきました。

夏の甲子園が中止になった後に、都道府県の独自大会が開催されるかもしれないという話を聞きました。でも正直なところ、当初はその話を私の口から全員の前で言うのはためらいました。新型コロナウイルスの感染状況が日に日に変わっていく中で、いつまた状況が悪化するのか分からない。6月に開催が決まっても、もし7月下旬から状況が変わり〝やっぱりできません"となると、3年生はセンバツ、夏の甲子園に続いて3度も涙を流すことになります。そんな姿をもう見たくなかったからです。

ただ、新型コロナウイルスがどういう状況になっても、その先の人生は確実に続きます。その先で、もっと予期できないつらい事態に遭遇するかもしれません。実際に、今も内定が決まっていた社会人チームが採用を見送ったり、入社しても1年目で休部になったりという事態が起きています。でも、困難なことに遭遇した時、どの方向に向かえば良くなるのか、自ら考えて動いていけるかでその後は変わります。
哀れに思われているだけでは前に進みません。2020年は努力の成果を試合で体現できませんでしたが、次のステップでこの経験を活かし、それぞれの地位を築いて「やっぱりあの時の学年のメンバーはすごかったんやな」と思われるような姿を見せてください。そして、この経験を後世に伝え、胸を張れる大人になってください。

履正社高校
硬式野球部監督 岡田龍生
※書籍の内容と一部異なる場合があります

履正社高校

1922年に大阪府福島商業として創立。83年から現校名となり、97年夏の甲子園初出場。2019年夏の甲子園では初の全国制覇を達成。主なOBにT-岡田(オリックス)、山田哲人(ヤクルト)、安田尚憲(ロッテ)など。


PICK UP!

新着情報