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【つくば秀英】甲子園だけでなく選手育成との両立を目指す

2017.4.18

森田健文監督の指示を受けるつくば秀英高校野球部の選手達
沢辺卓己前監督の確固たる理論による裏付けによって好投手を生み出しているつくば秀英高校。現在監督を務める森田健文監督もその理論を現場で実践し、チーム強化を図っている。後編は森田監督の目指すチーム像と実際の練習風景をレポートする。


◆目 次◆

練習試合も行えない変わった「専用グラウンド」

指導者としてはまず技術を伸ばしてやらないといけない

甲子園だけでなく選手育成との両立を目指す

練習試合も行えない変わった「専用グラウンド」

つくば秀英の練習場は学校から車で15分ほどの距離にある。野球部専用の施設ではあるが、いわゆる野球場の形をしているわけではない。内野のダイヤモンドがぎりぎり入るもの、約30メートル×100メートルの縦長のもの、そして一周200メートルほどのトラックの三つに分かれているのだ。それ以外にバッティングマシンが三つ設置されている室内練習場と屋根のついた三か所のブルペン、バッティング練習が行えるスペースなどもあるが、野球部の練習グラウンドとしては非常に変わった形と言えるだろう。内野と外野が一緒に行う実戦的な練習を行うことは難しく、練習試合は当然全て相手校に赴いている。

ダイヤモンドがギリギリ入る程度の大きさのつくば秀英高校野球部のグラウンドダイヤモンドがギリギリ入る程度の大きさのグラウンド。

しかしこの環境でも利点はあると森田健文監督は話す。

「今日は試合も近いのでベンチ入りのメンバーはダイヤモンドを使って走者をつけた挟殺プレーなどをしています。でも内野だけの実戦練習ですからサポートに必要な人員は少なくて済みます。そうなると他の空いているスペースで入部してきたばかりの一年生もバッティング練習ができるんですね。ピッチャーはトラックを使って走ったり少し長い距離のキャッチボールもできます。課題はまだまだありますが、この環境でもできることは多いと思います」

マシンだけでは実戦感覚を養うことができないため、実際にピッチャーが投げてバッティングするスペースも設けられていた。

▼バッティング練習の様子

指導者としてはまず技術を伸ばしてやらないといけない

投手陣が主に練習で使っていたトラックにも工夫が施されている。コースには少し柔らかい砂を敷いて負荷がかかるようになっており、また高低差をつけた坂路も用意されているのだ。周囲は菜の花が満開でのどかな風景が広がっていたが、追い込む時期にはこのトラックを使ってかなりの量を走るという。

「ランニングももちろんただ走れば良いというわけではありません。股関節と肩甲骨の動きを意識するようにしています。塚原頌平(現オリックス)や埜口卓哉(元東芝)なんかは自分がコーチ時代の選手ですが、動きをよく理解して練習にも取り組んでいましたので上達するのも早かったですね」

脇には綺麗な菜の花が咲く、1周200メートルほどのトラック。

森田監督はつくば秀英の野球部出身。現役時代はあらゆるポジションを守り、また主将も任せられていた。一学年下には江柄子裕樹投手(現巨人)がいる。高校卒業後は獨協大学でプレーし、08年に母校に赴任。14年春から監督を任せられている。前編で振れた沢辺卓己前監督の理論については、自身の経験からも納得する部分が多かったそうだ。

「自分の小学校時代は体が大きくて、県の選抜チームでもエースで四番だったんですね。連盟の世界大会でもホームラン王になるくらいでした。同じチームに常総学院に進んだ坂克彦(元阪神など)がいたんですけど、彼は大きくなくて二番でセカンド。坂からも『お前、絶対プロ行けよ』なんて言われていたんですけど、今思えば選手としての自分のピークはあの頃でしたね(笑)。

ビデオで当時のプレーなんかを見ると、完全に力任せでやっているんですよ。逆に坂は力はありませんでしたが、技術がしっかりしていた。それで中学、高校で体が大きくなって一気に伸びたんですね。だから指導者としてはまず技術を伸ばしてやらないといけないと思っています。

沢辺先生の教え方はそういう意味でも理にかなっていると思うんですね。まず副作用がない。筋力をつけて体を大きくすればボールは速くなるかもしれませんが、体の使い方が良くなければ故障に繋がることも多いと思います。あとポイントとなる部分が多くないので、そこさえ押さえておけば自由度も高いんですね。決して型にはめているわけではない。それも良いところだと思います」

インタビューに答えていただいたつくば秀英高校の森田健文監督お忙しい中インタビューに答えていただいた森田健文監督。

甲子園だけでなく選手育成との両立を目指す

コーチ時代も含めて多くのプロ選手を見てきた森田監督だが、それぞれに合った指導を心がけているという。また、伸びる選手の要素についても話を聞いた。

中塚中塚駿太/昨年ドラフト2位で白鴎大から西武2位指名)なんかは練習で走らせても途中でやめちゃうんですね。『もうこれ以上は無理です』って言って。
でも悪気があるわけじゃなくて本当にできないだけなんですよ(笑)。練習ではそんな感じでもマウンドで投げさせたら凄いボールを投げる。当時僕はBチームを見ていたんですけど、練習試合でも5回くらいまでビシビシ抑えるんですね。でも体力ないからちょっと体がおかしいって言ってくる。これは無理して追い込まずに、とにかく野球を辞めさせないようにしないといけないと思いましたね。

長井長井良太/昨年ドラフト6位で広島に入団)は中学時代キャッチャーだったんですけど、ずっとピッチャーがやりたかったみたいで、投げさせたら凄くいいボールを投げる。それですぐにピッチャーにしないといけないと思いました。ピッチャーとして伸びる選手に共通しているのはリリースだと思います。指にボールが少し乗っかる感じがするような選手は伸びますね。だからキャッチボールの時も斜め後ろからリリースを見るようにしています」

今年のエースである北山大毅投手もリリースの感覚が素晴らしく、小柄ながら140kmを超えるスピードを誇っている。しかし前編でも触れたようにつくば秀英の最高成績は県大会ベスト4で、いまだ甲子園出場には至っていない。だが森田監督はただ甲子園出場だけでなく選手の育成との両立が目指す方向性だと語った。

▼今年のエース北山大毅投手(左奥)

「高校野球ができる期間は短いですから全部ができるようになるのは難しいと思います。中塚のように大学でもまだまだ完成しない選手もいる。ただ甲子園に行くためだけに選手の可能性を狭めることはしたくないですね。よく沢辺先生とも話すんですが、その学年で毎年プロに行ける選手は50人くらいかもしれませんが、高校に入学した時点で可能性のあるこはその何十倍もいると思うんですよ。そういう選手を伸ばしたいですね。そしてもちろん勝つことも重要です。選手の力を伸ばすことと勝つことを両立させる。そういうチームを目標にしています」

森田監督の目指すチームが出来上がり甲子園出場を果たした時、つくば秀英出身の選手がプロ野球界を更に席巻している可能性は高いだろう。(取材・写真:西尾典文)

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