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【つくば秀英】甲子園未出場校の際立つ投手育成力

2017.4.17


昨年のドラフトで大山悠介(白鴎大・阪神1位)、中塚駿太(白鴎大・西武2位)、長井良太(広島6位)と三人の指名選手を輩出したつくば秀英高校。特に投手の育成には定評があり、毎年のように好投手が出現している。その裏には確固たる理論と技術を重視する指導方針があった。


◆目 次◆

プロでも際立つ「つくば秀英」出身投手の多さ

投げ方のポイントは「うねり」「はがし」「受け」の三つ

「高低」「コーナー」「緩急」「リズム」の四次元論

プロでも際立つ「つくば秀英」出身投手の多さ

つくば秀英出身の現役プロ野球選手は7人。これは全国の高校の中でも9位タイの数字である。ちなみに上位10校を並べると下記のような順位になる(育成契約、メジャー・リーグ所属の選手も含む)。

●1位 横浜(神奈川)17人(投手 5人/野手 12人)
●2位 広陵(広島)15人(投手 6人/野手 9人)
●3位 大阪桐蔭(大阪)14人(投手 4人/野手 10人)
●4位 東海大相模(神奈川)11人(投手 3人/野手 8人)
●5位 九州国際大付(福岡)9人(投手 2人/野手 7人)
●6位 帝京(東東京)8人(投手 1人/野手 7人)
●6位 日大三(西東京)8人(投手 3人/野手 5人)
●6位 敦賀気比(福井)8人(投手 5人/野手 3人)
●9位 つくば秀英(茨城)7人(投手 6人/野手 1人)
●9位 PL学園(大阪)7人(投手 1人/野手 6人)

九州国際大付は11年のセンバツで準優勝、その他は全て甲子園優勝経験のある学校である。一方でつくば秀英の県大会での最高成績は09年秋のベスト4。甲子園はおろか関東大会の出場経験もない。しかし7人全員が過去10年以内にプロ入りした選手である。近年の育成力の高さが全国でも指折りだということは間違いないだろう。中でも際立っているのが投手の育成である。昨年のエースで広島に6位で入団した長井良太は本格的に投手となったのは高校入学後とのこと。その後、瞬く間に成長を遂げて3年時には149kmをマークするまでになっている。

投手育成についての理論を確立したのが沢辺卓己前監督(現つくば秀英生徒指導部主事)だ。土浦四中、霞ヶ浦高校、城西国際大で投手としてプレーした後、97年にまだ野球部のなかったつくば秀英に赴任。翌年に立ち上がった野球同好会から指導にかかわっており、まさにつくば秀英野球部の礎を築いた人物である。現在は野球部の指導からは離れているが、コーチ時代にその指導を目の当たりにしていた森田健文監督もその理論を継承しているという。まずは沢辺前監督にその理論について話を聞いた。

投げ方のポイントは「うねり」「はがし」「受け」の三つ

「自分は球の遅いピッチャーで、なかなか速くなりませんでした。その経験もあって、自分のチームのピッチャーには速い球を投げるようになってほしいと思ったのが色々考えることになったきっかけです。選手としての経験だけでは足りないと思いましたのでドクター(医者)、理学療法士、整体師、鍼灸師などの専門家に多く話を聞いて、今の理論にたどり着きました。

投手育成理論について語っていただいた沢辺卓己前監督投手育成理論について語っていただいた沢辺卓己前監督。現在は野球部の指導から離れ、つくば秀英で生徒指導部の主事をされている。

まずポイントとなるのは両方の股関節と投げる手とは反対側の肩甲骨です。まずは前の足を上げた時に軸足の股関節をしっかり入れます。大腿骨を大臀筋に突き刺すイメージですね。その時に軸足が地面から反力をもらいますので、その力で入れた股関節を抜いて半円を描くようにして前の足に体重を移動させます。これを『うねり』と言います。

次に投げる手とは反対側の肩甲骨を背骨からはがして腕を内側にひねる姿勢を作ります。そうすると肩を開こうとしても開くことができません。よく“(前の肩を)早く開くな!”と言いますが、そうではなくて開けない状態にしてやるんですね。これを『はがし』と言っています。

軸足の股関節でうねりを作って、前の手の肩甲骨をはがしたら、最後は踏み出した前足の着地で受け止めます。その時もやはり股関節が重要で、踏み出した足の大腿骨に股関節をかぶせることをイメージさせます。これが『受け』ですね。

この『うねり』、『はがし』、『受け』の三つが上手くできるようになると体の回転する軸が細くなります。軸が細くなると回転は鋭くなりますから、自然とよく腕も振れるようになるんですね。よく“腕を振れ!”と言う指導者も多いと思いますが、それだけ意識しても鋭く腕は振れません。自然と腕が振れる体の使い方を習得するのが大事だと思います」

回転する半径が小さくなるとその速度(角速度)は速くなる。フィギュアスケートの選手がスピンする時に広げていた両手を体に近づけると、回転が速くなるシーンを思い浮かべるとイメージしやすいのではないだろうか。ピッチングでも鋭く腕を振るするためには回転半径を小さくする必要があり、そのために股関節や肩甲骨を使う。多くの専門家から得た知識を取り入れなければこのような理論を確立することはできなかっただろう。

合理的に体を使うことができれば、筋肉、腱、骨にかかる負担も小さくなる。また重要なポイントが分かっていればトレーニング効率も良くなるのは当然だ。

トレーニングに取り組むつくば秀英高校野球部の投手陣
トレーニングに取り組むつくば秀英高校野球部の投手陣

「トレーニングはありとあらゆるものがありますが、投げるうえで大事な動きや体の部分が分かっていれば、それに合わせて選択するだけでいいと思うんですよね。やみくもに筋肉をつけても、体の使い方が上手くなければ逆に故障するリスクは高くなると思います。体幹のトレーニングも大事ですが、しっかりと投げる動きをやっていればそれがトレーニングになるんですよね。春のシーズン前には動きを覚えさせるために結構球数も投げるようにしていましたが、ちゃんとした体の使い方ができていれば故障することもありませんし、無理に筋肉をつけなくてもボールは速くなります」

「高低」「コーナー」「緩急」「リズム」の四次元論

合理的な体の使い方をマスターしてボールが速くなっても、当然それだけで打者を抑えることができるわけではない。そしてそのポイントについても沢辺前監督はきちんとした理論を構築していた。

「よくストライクゾーンを9分割したものがありますが、あれは高低とコーナーの二次元だけなんですね。同じところにボールが来ても、タイミングが違えば打たれないことも多々あるわけです。この緩急を使えるようになると三次元ですよね。あと最後に重要なのがリズムです。打たれるときはバッターとピッチャーのリズムが合ってしまっているんですよ。逆にバッターがピッチャーのリズムに合わなかったら得意なコースや甘いボールでも見送ってストライク一つとれることもあります。だから常にこの四つを意識して打者と勝負することが重要だと思います」

もう一つ重要だと考えていることが言葉のインパクトだという。理屈として正しいことも、選手が分かりやすくすんなりと理解できる言葉でないと伝わらない。それは投げ方でも抑え方でも同じだ。

つくば秀英高校野球部のブルペンの様子
ブルペンで投球練習を行う投手陣。左側が今年のエース北山大毅投手

「体を回旋させる時のエネルギー源を股関節で作って、骨盤を回して体幹を通過させて、肩甲骨をはがして回る半径を小さくすることで速く腕が振れる。それが投げ方の基本です。それをより分かりやすく端的に伝えるために『うねり』、『はがし』、『受け』の三つにまとめているんですね。抑え方も同様で『高低』、『コーナー』、『緩急』、『リズム』の四つ。ポイントは合わせて七つで、この組み合わせでピッチングが構成されているという話をすると選手も理解しやすいですね」

【つくば秀英】甲子園だけでなく選手育成との両立を目指す