勝負の夏へ、最後のエンジン始動
━━ピークから落ちた状態のまま夏を迎えるわけにはいかない。となると、もう一度ピークを作らなければならない、と考えるのが普通です。夏を前に短期間で“もう一段上げる”という作業は、私にとっても初めての経験です。でも、その方法は分かっているつもりです。
━━「その方法」とは?
一度スイッチの入ったエンジンを止める作業も必要で、そこから再始動していかに最大出力を引き出していくか。春の大会、5月の県選手権と、公式戦ではあまり投げさせてきませんでした。大型連休中の中九州ベースボールウイークも次から次に強豪校がやってきて、狩生が投げなければいけない状況もありましたが、それでも抑えながら、抑えながら乗り切らせました。こうして彼に我慢させることが必要だったのです。春先の覚醒の反動で落ち込んだぶん、今度は我慢の反動で一気に突き抜けさせたいと思います。
━━そんな中でも、5月には狩生投手のストレートにある変化が見られるようになったと聞きました。
手帳に書き残していますよ。5月23日の練習中、17時27分のことです。ストレートの質が明らかに変わった瞬間がありました。春先ほどの球速は出ていませんでしたが、本当に力感がないフォームから、ストレートが気持ちいいほどに走り始めたのです。私は手帳に『最後のエンジン始動』をかき込みました。打者の反応を見ていても、明らかにボールがキャッチャーミットに届いてから振り出しているのです。そして、いよいよ狩生からは力感を感じなくなりました。私はそのボールを見た時から、彼に最大出力を求めなくなりました。この感覚の中で抑えることを覚えたので、これが彼にとっての成功体験になるだろうなと思ったからです。
━━いよいよ狩生聖真という才能と挑む、最後の夏がやってきました。
選手の育成という意味においては、私にとっても未知の領域に足を踏み入れることになるでしょう。もちろん彼を壊すような使い方はしませんが、甲子園とプロの二兎を追う以上はギリギリのところで勝負してみたいなと思います。それだけの覚悟を本人と共有して本番へと向かうつもりです。(取材:加来慶祐/写真:編集部)
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