企画

連載野球小説 『天才の証明』 #9

2016.6.24


〜第9回〜

「副社長、世良を二軍に落とすことに決定いたしました」

 立花洋司は北海道ガンナーズの球団事務所の副社長室で、栗原からの一報を受けていた。

「期限は今のところ、無期限を考えております」

 立花は左手にはめた腕時計をちらりと盗み見る。時計の針は十五時五分を指していた。ガンナーズはセインツドームでの二連戦を一勝一敗で終えた。一日のオフを挟んで、明日は神宮に乗り込んでパンサーズとの二連戦である。

「承知致しました。わざわざご連絡ありがとうございます」

 立花は栗原との短い通話を終えると、受話器を置いた。

 立花はパソコン画面を立ち上げ、BOS(ベースボール・オペレーティング・システム)の専用端末の管理画面を眺めていた。世良正志のステータスを呼び出し、本日の投球内容を入力する。

 2回と3分の2イニング、8失点。

 続いて、「主力」と記されていたステータス欄をクリックした。

 ――世良正志を「在庫」処分、と。

 世良正志の名が赤字で表示され、ステータスが「在庫」に切り替わった。

 BOSはコストを抑えた効率的なチーム運営のため、約十年前に一億円の費用を投じて開発したシステムである。

 選手の「見える化」を推し進め、選手評価に公平感、納得感を持ってもらうのが導入の目的であった。2005年にBOSを導入後、契約交渉時に選手が球団による評価に納得できず保留するという場面が目に見えて減少した。
一方で、ガンナーズは毎年リーグ優勝に加わりながらも年棒総額は常に下位にあるという「安くて強いチーム」作りに成功した。

 年によって若干のばらつきはあるが、北海道ガンナーズの総年棒は毎年二十億円前後の水準に収まっている。球界の盟主である東京セインツは三十五億円前後、球団予算が厳しい広島レッドスキンズに至っては十五億円程度だ。

 BOSは成績や年棒に応じてチームの支配下選手を「主力」「控え」「育成」「在庫」に分類する。また、チーム外の選手についても情報を逐次収集している。

 十二球団に所属する一軍選手およびドラフト対象になり得る高校生、大学生、社会人など九百人近いデータを格納している、いわば球団の最高機密である。

世良正志 ステータス「在庫」 年棒 三千五百万円
《年度別成績》
2012年 6勝5敗 防御率2.69
2013年 4勝7敗 防御率3.40
2014年 0勝6敗 防御率8.48

《性格・気性》 各五段階評価
強気or弱気:☆☆ (やや弱気)
対ピンチ:☆☆ (やや弱い)
創造性:☆☆ (やや低め)
コミュニケーション能力:☆☆ (やや低め)
礼儀・マナー:☆☆☆ (ふつう)
忠誠心:☆☆☆ (ふつう)

「さて、商品価値の高いうちにトレード先を見つけなくてはな」

 立花は世良正志のステータス画面を見つめながら、溜め息交じりに呟いた。

「三年前に君を一位指名したのは、私の眼鏡違いだったかな」

(著者:神原月人)


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