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【栃木工業】強豪私学勢に立ち向かう公立校、虎視眈々と狙う甲子園

2017.3.13

昨年夏の甲子園優勝チームである作新学院以外にも佐野日大、文星芸大付属、白鴎大足利など強豪私立がしのぎを削っている栃木県の高校野球。そんな中、公立で健闘を見せている学校の一つが栃木工業だ。10年前の早い段階から食事の改善にも取り組み、選手を鍛え上げているという。そんな栃木工業の練習を取材した。


◆目 次◆

1点をとる可能性を上げるための判断力を養う走塁練習

ステップと投げる方向を意識したキャッチャーのスローイング練習

ステップと横投げを徹底した投手のバント処理練習

1点をとる可能性を上げるための判断力を養う走塁練習

栃木県立栃木工業高校。甲子園には春夏を通じての出場はなく、全国的な知名度は高くないものの、県内では度々上位進出を果たしている公立の雄である。昨年春の県大会でもその後夏の甲子園で優勝することになる作新学院を破り、見事ベスト4まで勝ち進んだ。また選手でも層の厚いチームで長く一軍の戦力として渋い活躍を見せている寺内崇幸内野手(巨人)や、今年のドラフト候補に挙げられている角田皆斗投手(富士重工)も輩出している。

栃木工業野球部を率いる日向野久男監督

チームを率いる日向野久男監督は同校のOBであり、捕手として社会人野球の東京鉄道管理局(現JR東日本)で9年間プレーした経験も持つ。90年秋から母校の指揮を執っており、転勤で3年間学校を離れた時期はあったものの、常に私立の強豪校を脅かすチームを作り続けてきた県内でも屈指の名監督である。その日向野監督が長くチームを指導する中で、最近の選手の傾向で気が付くことがあったという。

「昔に比べてヤンチャな子が減ったという印象がありますね。最近の選手は良い意味でも悪い意味でも真面目です。こちらの言うことはしっかりこなす。でも逆に対応力や危機管理能力が低い。つい最近もボールから目を離して怪我した選手がいました。実際のプレーでも判断が上手くできないことがよくありますね」

他の指導者からもよく聞く話である。ただそんな状況に手をこまねいていては結果を残すことができない。取材したのは2月の下旬だったが、3月から始まる練習試合に向けて実戦形式の練習が多く行われていた。中でも注力していたのがランナーの判断力を鍛える走塁練習だ。想定している場面はワンアウト二塁で三遊間に打球が飛んだ状況。ゴロであればランナーは止まる場面だが、レフトへ抜ける時には判断良くスタートを切ってホームを狙おうというものだ。

三遊間にはどこに飛べばレフトへ抜けるのかという目安を知らせるためのラインが引いてあり、ノッカーは打球の速さに変化をつけて打つ。そうすることでランナーはどの程度の打球なら三遊間を抜けてホームを狙えるのかという判断を養うことができる。また、三本間にもラインが引いてあり、どのくらい前の打球であれば緩い当たりで最低でもサードまでは行けるのかということの判断力も養っていた。このような練習をするように思い立ったのは、県内で大きな壁となって立ちはだかっているチームの存在があったという。
「ランナー二塁でワンヒットで1点取れるか取れないかは大きく違います。セカンドランナーは通常、自分の前に飛んだ打球の時は止まるんですが、作新(学院)は判断良くスタートして回ってくるんですよ。それを見てうちもやらないとと思いました」(日向野監督)

ステップと投げる方向を意識したキャッチャーのスローイング練習

日向野監督が捕手出身ということもあり、配球に関して冊子にまとめるなど専門性の強いキャッチャーの指導も手厚く、スローイングの練習に関しても工夫が見られた。

最初に行っていたのがラインを引いて行うスローイング動作の反復練習。キャッチャーはボールを受けてから投げる時に両足が必ずそのラインに乗るようにステップする動作を繰り返すのだ。

また機会の多いセカンドだけでなく、ファーストとサードに投げる場面もしっかり想定していた。その後は実際にボールをケージに投げる練習も繰り返していたが、ここでも同じように三方向を想定。更にただ投げるのではなくケージに布を結びつけて、そこを狙うことを徹底していた。

「キャッチャーのスローイングは一塁へ投げるのも三塁へ投げるのも重要」という日向野監督の考え方がよく分かる練習と言えるだろう。

ステップと横投げを徹底した投手のバント処理練習

捕手がスローイングの練習に取り組む間に投手が行っていたのがバント処理。ここでもただノックを受けるのではなく、動きにまでこだわりが見られた。場面は走者二塁での三塁側へのバント。投手はマウンドを駆け下りて三塁へ送球するのだが、速さと正確性を求めるために投手は必ずベースに向かってステップし、腕の振りは横からということが徹底されていた。

練習の合間には投手を集めて肘から先の使い方を細かく指導。投手のバント処理の重要性を改めて考えさせられる練習風景だった。

この日は午前は守備、午後からはシートバッティングと実戦的な内容が多かったが、それぞれの練習で意識する点が明確に示されており、その指導は細かい動きにまで及んでいた。日向野監督は「力はついてきていいところまでは行きますが、倒さないといけない相手が強力ですから」と語るように求めるレベルは高い。全国レベルの私立を破って甲子園出場へ。栃木工業の挑戦は春以降も続く。(取材・文:西尾典文、写真:小沢朋範)



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