夏のレギュラー選手はゼロ 手放しでは喜べない東海大四の優勝
北海道大会の夏秋連覇は東海大四で6校・13度目の快挙だが、驚くのは夏のレギュラー選手がゼロ、ベンチ入りも4人だけという未経験軍団だったこと。勝つことを知り、負けない流れをつかんだ高校生の限りない可能性を痛感させられ、新チーム結成後時間がない中、苦労して勝ち取った優勝を祝福する一方で「それでいいのか」と他校の奮起を期待したい気持ちになった。
実は東海大四・大脇英徳監督は準決勝で昨秋惜敗した駒大苫小牧を相手にコールド勝ちを収めた後に「野球って難しいですね」と神妙な表情を浮かべていた。前チームの経験者が皆無で監督就任以来最も短い練習時間で優勝したのだから「これでいいのか」と戸惑うのも無理もない。
秋の公式戦の8試合は主戦・大澤志意也が踏ん張り、日替わりで打のヒーローが誕生した。今となっては切り込み隊長の冨田勇輝、決勝で2打点の4番邵(そう)広基、大会2本塁打の3番山本浩平、急成長した女房役・小川孝平と攻守にまとまりのある好チーム。二塁手の金村航成や背番号10のキャプテン・宮崎隼斗ら脇役の存在も光り高校野球の成長カーブと公式戦の勝利がもたらす大きな力を改めて思い知らされた。
準優勝の北海は北海道大会3試合を逆転勝ちして大会を盛り上げた。渡辺幹理、山本樹の両右腕とケガを克服した苦労人・鎌仲純平主将がけん引し、攻守交代の全力疾走や所作の一つ一つに鍛え抜かれた伝統校らしい一面が垣間見え3年生を含めた控え部員の応援マナーも他校の模範となるものだった。東海大四と対照的に夏の敗退は6月30日で地獄の夏を経ての1点差負け。無常さに試合後は号泣した選手たちだったが、あえて来夏の本命と伝えたい。
来夏に期待したい札幌日大、北見工業の両チーム
その北海に敗れた札幌日大は山本龍之介の角度のある速球と強力打線が大会屈指だった。その中でひときわ光ったのが東海林泰成主将のキャプテンシーだ。準決勝で北海に敗れ多くの選手が涙で顔をあげられない中、毅然と前を向く姿は胸を打った。
駒大苫小牧は選手個々の力がかみ合っていない印象を受けた。主戦の伊藤大海、桑田大輔(1年)の投手陣の調子が上がらず、チーム全体の焦りを感じた。対戦相手が恐れる勝機を逃さないしぶとさ、泥くささも投手陣の奮起があってこそ。逆に言えば投手陣が復調すると来夏、甲子園が一気に近づく。
驚かされたのが北見工の強さだった。1年生右腕・中川裕元の評判は聞いていたが選手の体の強さ、スイングの強さは目を見張り、優勝候補の札幌第一に完勝、3回戦(準々決勝)では東海大四を相手にほぼ勝利を手中にしながら失策で追いつかれての逆転サヨナラ負け。21世紀枠候補校はほぼ確実。今からあえて甲子園へ行くつもりで冬を過ごしてほしい。
新チームで戦う秋季大会は公式戦経験が乏しいため試合中の立ち居振る舞いやマナー面の課題が毎年浮き彫りとなる。むしろある意味、高校生らしく初々しくもあるが、打者が投球に当たりに行く行為、併殺阻止のため手を上げてのスライディング、四死球後のガッツポーズ、本塁上のクロスプレー時の捕手の足の位置などが気になった。ただこれらは公式戦の経験不足に起因していて来夏へ向けて技術同様、心の成長にも期待したい。
また引退した3年生が応援に駆けつけ後輩たちへ声援を送る姿は微笑ましく、重圧から解放されて見せてくれるのびやかな笑顔も秋の風物詩だが、少々はしゃぎすぎと感じる学校があった。気持ちは理解できるがあくまでも卒業までは野球部員(厳密には来年3月31日まで)でありその学校の在校生。現役時代同様、いやそれ以上の自覚を持って残りの高校生活を過ごしてほしい。
<著者プロフィール>
長壁 明(おさかべあきら)
1968年生まれ、札幌市在住。
札幌清田高野球部OBの元高校球児
広告会社勤務を経て09年9月に「北海野球部百年物語」を発行
11年7月に道内高校野球専門誌「北の球児たち」を創刊。
Facebook: https://www.facebook.com/kabesta
「北の球児たち」次号は11月下旬発行予定(税込720円)
秋季大会の詳細データと豊富な写真で熱闘を綴ります。
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