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「高校野球脳を鍛える 実戦プレー問題集」にチャレンジ!(上級編:問題3)

2020.6.25

昨年6月に発売されたこの本では、実際にあったプレーを挙げながら、考え方、守備位置、カバーリング、ルール等を初級、中級、上級に分けられた全120問を徹底解説しています。今回は上級編の中から、ランナー三塁の場面でのヒットエンドランに関する出題です!


上級編|問題3

問題

攻撃側が1対0とリードした8回表、1死三塁で打者は一番打者。
ここで監督はエンドランのサインを出しました。
スクイズでもいい場面にもかかわらず、なぜ監督はエンドランのサインを出したのでしょうか? また、打者がやるべきことも答えてください。

解答・解説

ランナー三塁でのエンドランは、高校野球でもほとんど見られない作戦です。あえてそれを敢行するということは、監督の「どうしても1点を取りたい」という意思表示だといえます。

8回表で1対0ということは、基本的には味方の投手が好投していると考えられます。投手の出来から考えて、ここで1点を取り、2点差にすれば逃げ切れるという計算です。

では、なぜスクイズではなく、エンドランなのでしょうか。

それは、バッターの能力に関係があります。一つは、バントがうまくないこと。もう一つは、バッターに当てる能力があるということです。監督は、バントするよりも、打たせた方が点を取れる確率が高いと判断したわけです。

ここでバッターがやるべきことは、もちろんバットに当ててゴロを転がすことです。三塁走者はスタートを切るわけですから、ピッチャーゴロ以外ならほぼ得点できるでしょう。

実際にあったプレー

2016年センバツ準決勝・龍谷大平安 対 智弁学園戦。1対0とリードする龍谷大平安7回表の攻撃でした。1死三塁で打席には1番の小川晃太朗。カウント1-1から原田英彦監督はヒットエンドランのサインを出しました。ところが、小川はスイングした後に転ぶほど強振してファウル。4球目に高めのボールを空振りして三振に終わりました。続く2番の久保田悠もセカンドゴロで無得点。

結局、平安はここで追加点を挙げられなかったのが響き、9回裏に2点を奪われサヨナラ負けを喫しました。

なぜエンドランなのか。原田監督はこう言っていました。
「あそこは(点を)取りにいかないといけない場面。小川はバントがうまくないんです」

できればスクイズしたいけれども、バントが下手だからサインが出せない。だから打たせるわけです。かといって、普通に打たせても点が入るとは限らない。そこで、エンドランを選択しました。そこには、「どうしても1点を取りたい」という監督の気持ちが表れています。

平安先発の左腕・市岡奏真は、智弁学園を6回まで散発5安打の無失点に抑えていました。市岡の出来から考えて、原田監督には「もう1点取って2点差にすれば勝てる」という思いがあったはずです。だから、エンドランで何が何でも点を取りに行く作戦を敢行したわけです。

ところが、打者の小川はフルスイングをしてファウルでした。試合後、小川に話を訊くと、「思い切って振って捉えられなかったのでしょうがない」と言っていました。

フルスイングなど必要ない場面です。むしろ、どん詰まりのボテボテのゴロの方が確実に点を取れます。小川は、自分のやるべきことも「どうしても1点を取りたい」という監督の意図を分かっていませんでした。


『高校野球脳を鍛える 実戦プレー問題集』(田尻賢誉/竹書房)

昨年6月に発売されたこの本では、実際にあったプレーを挙げながら、考え方、守備位置、カバーリング、ルール等を初級、中級、上級に分けられた全120問を徹底解説しています。





著者

田尻賢誉(たじり・まさたか)
1975年兵庫県生。学習院大学卒。ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球をはじめ、徹底した野球の現場取材に定評があるほか、指導者、中高生、父兄への講演活動も行っている。『機動破壊』、『機動破壊の秘策』、『機動破壊の解析力』、『高校野球は親が9割』、『超強豪校』、『激戦区を勝ち抜く方法』(すべて小社)など著書多数。

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