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「監督なんて何もしてやれない」決勝進出を狙う専大松戸の「言葉術」

2020.10.30

関東大会準々決勝は27日、専大松戸が鎌倉学園を6-0で破り初の4強入り。来春のセンバツ出場に当確ランプを灯した。エース深沢鳳介(2年)が被安打5、7奪三振で2試合連続完封勝利。チームは18ニング無失点で、31日の準決勝(千葉県野球場)、健大高崎と対戦する。


持丸修一監督が「出場校中15番目のチーム」と謙遜する、千葉3位校の専大松戸が快勝。初戦に続く完封勝利を果たした。

「本当に千葉3位のチームなのですか?」

試合後の囲み取材でそう聞くと、指揮官は微笑みながらこう言った。

「…です! 千葉3位のチームです」

誘われるように、報道陣からも笑いが起こる。

持丸監督。72歳。キャリア50年の大ベテラン。竜ケ崎一、藤代、常総学院、専大松戸と、公立私立4校すべての学校を甲子園に導いてきた名将の采配が、今大会も冴えわたっている。奇跡や旋風なんかではない。取材をしていると快進撃の裏に根拠があることに気づかされる。

一つは、選手にかける言葉のチョイスだ。

「関東大会準々決勝だそ」
ではなく
「県大会6回戦だ」

「千葉3位の意地を見せてやれ!」
ではなく
「楽に行け。15番目のチームなんだから」

「(ピンチに)気合で乗り越えろ!」
ではなく
「勝った負けたでギャーギャー言うな」

いわゆる“持丸節”である。

無観客試合である今大会は、ベンチから発せられる指導者の声がクリアに耳に入ってくる。聞いていると、持丸監督の声かけは、選手を威圧したり、間違った形で高揚させたりしないのだ。かつては「鬼の持丸」と言われた時代もある。おそらく負けん気は、今も人一倍だろう。それが今大会、穏やかな茨城なまりの口調で選手の可能性を引き出し、試合で力を発揮させている。「言葉術」というものを感じてしまう。

準々決勝に勝った27日、選手への声かけについてこう説明してくれた。

「(センバツが決まる)ベスト4だからって固くなったり、欲が出たり、まぁありますよね。でもね、そういうのをね、なんかこっちで無くしてやろうとか、緊張を無くさないようにしてやろうとか。結局は、ムード作りだけなんですよ。監督なんて(試合では)何もしてやれないんですから。座ってるだけですもん(笑)」

「明るい子が多い」と評する今年のチームは、スタメン中3人が1年生。昨年の侍ジャパンU15(軟式)のメンバー大森駿太朗(1年)と、京葉ボーイズの主力で全国4冠を達成した黒須堅心(1年)を、相手投手との相性を鑑みて、1番・3番を入れ替えて起用している。

「1~5番で打てばいい」と上位打線に期待しつつ、6~9番に対しては「間違ったら打ちますから」とゆるやかに見守る持丸監督。その効果か、初戦の鹿島学園戦は安打13本中、6本のヒットを下位打線が放った。

「高めも使って」好投深沢にも力を引き出す言葉


緩急を使った抜群の投球術で、2試合連続の無四球完封勝利。4強入りを果たしたエース深沢鳳介

2試合完封のエース深沢鳳介にかける言葉もマッチした。

「低め、低めばっかり意識してると球が落ちてくるぞ。高めもときどき使って幅を広げろ」

その言葉を受けてから深沢は高低のゾーンをより有効に使って配球できるようになった。持丸監督の指導をどんどん吸収する深沢は、プラス、自分の感覚に落とし込んで練習ができる素直な選手だと言う。直球は130キロ前半だが、スリークォーターとサイドの間くらいの腕の位置から、緩急を使ってコースに投げ分ける。ここまで2試合18イニング、被安打10、14奪三振、四死球0、防御率0.00。1イニングあたりの許した出塁を示すWHIPは0.56という好数字だ。スライダー、カーブ、フォークの精度も高い。

出身は中学軟式の強豪、江戸川区・上一色中。「中学の野球部では、監督の西尾弘幸先生にインコースの使い方を教えてもらいました。中学軟式はビヨンドマックス(バット)を使うので、速い球だけでは飛ばされてしまう。緩急を使って、コーナーを攻めていく投球術を鍛えられました」と深沢は胸を張る。同じ中学出身の横山陸人(ロッテ=2019年ドラフト4位入団)に憧れて専大松戸に入学した。

持丸監督は専大松戸で上沢直之(日本ハム)、高橋礼(ソフトバンク)というプロでもトップクラスに迫りつつある投手を育てたが、深沢を軸とした現チームを「藤代で井坂亮平(元楽天)、美馬学(ロッテ)がいたときのような、公立っぽいチーム」と表現する。「あのときも、エースがビシっとしてましたよね」と急成長中の深沢をかつての教え子に重ね合わせる。穏やかに選手を見守り、声をかけながら、鋭い洞察力でチームを勝利へ導く持丸監督。孫ほどはなれた選手とともに、1歩1歩、山を登っていく。


7回表に2点タイムリーとなる中前打を打った1年生の黒須堅心。泥臭い打撃でつなぎ役を果たした

7回裏、2死満塁。ライトの奥田和尉がヒット性の強い打球を好捕。鎌倉学園の反撃を封じベンチ前で歓喜のハイタッチ


第73回秋季関東地区高等学校野球大会
▽準々決勝(10月27日・柏の葉)
専大松戸 003000300=6
鎌倉学園 000000000=0

(写真・取材・文/樫本ゆき)


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