企画

名捕手・野口寿浩の少年時代、現役時代

2015.7.6
 生存競争の厳しいプロ野球の世界で21年間、キャッチャーという過酷なポジションを務めた野口寿浩さん。前回は、野口さんが世田谷、習志野に開校した「オークス野球教室」についてお話しを伺いましたが、今回は野口さんの少年時代、現役時代の話を伺いました。

「小学4年からキャッチャー」

――野口さんが野球を始めたきっかけを教えてください
野口 父親ですね。物心ついたときには、「お前は野球をやるんだよ」と言われていましたから。始めたのは小学2年ぐらいですね。

――当時はどんな練習をされていましたか?何か特別な練習などはありましたか?
野口 とくにはなかったですね。ノックをやって、打撃練習をやって。ふつうの感じでしたね。小学校のときは日曜日しか野球をすることがなかったですから。その日曜日もほとんど試合でした。どこにでもあるふつうの少年野球チームでした。練習ってほとんど記憶にないんですよ。たまに、試合が終わったあとにちょっと練習しようかということはありましたけど。卒業した人が遊びにきて、そこに入るってぐらいです。

――当時のポジションは?
野口 キャッチャーです。小学4年からキャッチャーをやっていました。僕らの代から、小学4年生以下しか出られない大会が始まったんです。その大会でキャッチャーの子がケガをしてしまって、誰がキャッチャーをやる?となったんです。僕はそのときサード兼2番手ピッチャーという感じだったんですけど、肩の強いやつがやってみろと僕がキャッチャーをやることになったんです。その試合で盗塁を3つぐらい刺して、そのままキャッチャーをやるようになったんですよ。

――その頃にはもうキャッチャーに魅力を感じていましたか?
野口 いや、まだないですね。少年野球から中学野球にかけてなので、少年野球は変化球を投げませんよね。中学野球も投げたとしてカーブが精いっぱい。その中ではキャッチャーのおもしろさはわからなかったですね。まだわからない時期でした。だから、かわりにキャッチャーをやった子がうまく捕れたら、僕はそのままサードをやっていたかもしれませんね。


「信念を持てるだけ練習できなかったという悔いがある」

――中学時代は硬式野球ですか?
野口 軟式です。中学校の野球部です。同じ市内に全国で準優勝とかそういう強い学校があったんです。市内で勝って県大会にいくとベスト4にはいくというぐらいは強かったです。

――その後、名門・習志野高校に進むわけですが、高校3年間を振り返ってみていかがですか?
野口 悔いだらけですね。もっとやっておけばよかったというか、いろいろあります。夏の大会の2週間前に、ちょっとバッティングをいじられてそれで打ち方がわからなくなって打てなくなったんですけど、そういう話を聞かなければよかったとか(笑)。僕のバッティングの中に確固たる信念がなかったから、そうなったわけですから。信念を持てるだけ練習できなかったという悔いがあるし、最後の最後でケガをしたんですよ。それも後悔のひとつですね。

――プロを意識されたのはいつごろですか?
野口 高校3年の春ころですかね。プロのスカウトの方が練習を見に来ている、みたいなことを耳にして。

――今、18歳の野口寿浩に何かメッセージを伝えるとしたら何と言いますか?
野口 なんだろうなぁ。さっきもあったけど、「信念を持ちなさい」と言いたいですね。まわりに左右されるなと。信念を持っている高校生はなかなかいないでしょうけど。



「リードとか頭の中のことはノムさんから教わりました」

――ヤクルトに入団したときの印象は?
野口 どんな世界か想像していなかったんですよ。よくも悪くも高校野球の延長で行きましたから。プロに行けるとは思っていなかったので、甲子園を目指して集中してやっていたんです。プロに入って、今度は試合に出ないと意味がないから、今度はそこに向かって集中してやったわけです。プロ野球がどうのこうのではなく、自分がどうのこうのという段階でした。自分のことで必死でしたね。4年でダメだったら、(習志野に)帰ってくるかと思っていましたから。投げることと走ることには自信がありましたけど、バッティングは全然でしたから。プロの打撃練習で、全然前に飛ばないんです。これはダメだ、と思いましたよ。

――それが21年もプロ野球生活を送ることになるわけですが、長く続けられた理由は?
野口 やっぱりノムさんに怒られたことですよ(笑)。それまで、アマチュア時代にキャッチャー経験者から指導を受けたことがなかったんです。初めて教わったのが野村さんでしょ。怒られて当然ですよね。逆にそれがあったから、怒られながらもできたのかなと思います。基礎から叩き直されたというか、教わっていないものを最初から教わったんです。それまではキャッチャーのふりをしていたようなものでしたから。キャッチングやスローイングは、コーチからみっちり教えられて、リードとか頭の中のことはノムさんから教わりましたね。ノムさんから技術のことでとやかく言われることはあまりなかったです。

――プロに入る前、野村さんにはどんな印象がありましたか?
野口 あれですよ。解説者をされていたときの「野村スコープ」。次に投げる球をズバズバ当てるじゃないですか。すげー、すげーと思いながら見ていました。プレーではなく、スコープばかり見ていましたよ。自分も考えながら見ていたわけではないんですが、当たるのがすごいなと思いながら見ていました。なんでわかるんだろうなぁって。そのときは配球を考える習慣は自分の中でなかったですから。

――配球を学んだことはバッティングも役立ちましたか?
野口 助けにはなりましたよ。(同期入団の)古田さんみたいに2年で噛み砕くことはできませんでしたけど。このキャッチャーはこう考えるんだろうなとわかるようになりましたね。日本ハムへ移籍して、そこからまた阪神に移籍したとき、交流戦が始まって最初の対戦が日本ハムだったんです。それまで何度もバッテリーを組んだ金村が相手の投手で、変化球が2球続いて2ストライクになったんです。キャッチャーは実松(現巨人)がやっていたんですけど、3球目のサインがなかなか決まらなかったんですよ。金村は首を振るわけです。で、僕は実松に向かって「外真っすぐだってよ。外の真っすぐのサイン出したら、頷くから」と言ったら、実松がその通りにサインを出して金村も頷いて。それをパカーンとライト前に打ったこともありました(笑)。


「落合さんが2メートル100キロとかに見えました」

――リードをするときに心がけていたことはありますか?
野口 ピッチャーが投げやすいように。ピッチャーが気持ちよく投げられれば、球もよくなってくるでしょ? 打者の弱点というより、ピッチャー優先の気持ちが強かったです。どうしてもここに弱点があるという打者と対戦するときは、ピッチャーに前もって話をしていました。データとかは参考程度にしていました。データで出ていても、そこに投げられるピッチャーと投げられないピッチャーがいますから。できないピッチャーに無理やりやらせようとして大量失点することもありますから。

――なるほど
ジャイアンツ戦で川崎憲次郎さんとバッテリーを組んだときなんですけど、ミーティングで「落合には徹底してインコースいけ」と言われていたんです。川崎さんが真に受けちゃって、3打席目まで全球インコース。僕は、いい加減インコースと読まれるだろうと、アウトコースへのサインを出したんですけど、川崎さんは首を振るんです。そしたら3打席目でホームランを打たれたんです。試合後、落合さんのコメントは「だってインコースにしか来ないんだもん」って(笑)。野村さんも自分が言った手前、そういったことに関しては怒りませんでした。それからですね、無理やり投手に投げさせようとしなくなったのは。

――キャッチャーとして、対戦したバッターで一番嫌だったのは誰でしたか?
野口 やっぱり落合さんですね。どこでもバットが出てきましたから。見逃すかなと思っても捕る瞬間に、バットがシュッと出てくるんです。
不思議なもので、打席での佇まいでは打たれないと思うんです。気配を消しているタイプでした。だけど、対戦すればするほど威圧感が襲ってくるんです。体が大きい人ではないですよね。初めて対戦した時は、そのまんまのイメージだったんです。でも、最後のほうは落合さんが2メートル100キロとかに見えましたから。

――打者として対戦したピッチャーで一番すごいと思ったのは誰ですか?
野口 いっぱいいますよ。松坂大輔(現ソフトバンク)もそうだし、ソン・ドンヨル(元中日)の真っすぐは消えましたね。速すぎて。高めの真っすぐは消えた感じがしましたよ。

――バッテリーを組んだ中で一番凄いと思った投手は誰ですか?
野口 伊藤智仁さん(元ヤクルト)かな。スライダーも凄かったですけど、なんといってもコントロールですよ。ブルペンで「ボール1個外したとこに構えて」と言われて構えたらそこにきますし、半個ずらしてもズバンときました。真っすぐやスライダーが凄いと言われましたけど、僕はコントロールが凄いと思いますね。あと、コントロールで言えば岡林洋一さん(元ヤクルト)もですね。僕の記憶の中では。

<了>




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「OAKS BASEBALL CLUB」
野球を通して子供達の向上心(目標に向かって努力をする心)や協調性(仲間と協力する心)を育むことを大切にした野球教室。また、プロ野球で活躍した野口寿浩氏(元ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜)がヘッドコーチ、和田孝志氏(元ロッテ)がコーチを務め、本物の野球理論・技術に基づいた質の高い指導を行う、これまでにないタイプの野球教室です。



【主な活動場所】
 駒沢公園軟式野球場習志野市中央公園軟式野球場
【ホームページ】
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