企画

【アメリカ視点から見る高校野球】人間味溢れる大会を作り出す抽選会

2015.8.5
 ついに全国高校野球選手権第100回大会を彩る、全49校が出揃った。

 抽選会は大阪市内でおこなわれた。応援するチームがどこに入るかによって、多くの方が予定を調整することになるだろう。特に両親や学校関係者にとっては大慌てで予定を組み立てる必要が出てくるのではないか。選手や関係者にとっても負ければ終わりの高校野球選手権ではクジが命運を左右することになる。

 この抽選会の模様はとても新鮮であり、ビジネス的要素がなく正々堂々たるものを感じる。主将がクジを引くため壇上に上がり、チームメイトたちは席から見守る。お披露目の場でも全員が制服を着ている姿が学校教育の一環を忘れさせない。

 アメリカではアマチュアスポーツを代表する大会の一つである大学バスケットボール全米選手権の「マーチ・マッドネス」では、 全64チームを4つの地区に分けて、それぞれに1位から16位までシード順位を付けていく。厳密には初戦の前に4試合がおこなわれ、最後の64チームに入る切符を8チームが戦うところから始まる。シーズン中の成績やシーズンに勝ち負けした対戦相手の実力などあらゆる要素を計算して、出場の権利を得られるチームを導き出していくのである。

 そのため初戦はある程度、結果の見えるカードが多く存在することとなる。もちろんそこはアマチュアスポーツの醍醐味でもある、何が起こるか分からない大番狂わせは時に起こるものの、結果的に見れば順位の高いシードを持つチームが最終的に勝ち上がっていく場合が多い。シード順位が高いチームを地元に近い開催地で試合を組み合わせるなど興行として、考慮したビジネス面が要所でチラつくのである。

 カレッジフットボールでは2014年からプレーオフ制度を導入したが、進出するチームは形成された審査委員会の面々によって決められる。人間、そして機械的な計算によって組み合わせが決められることが多いアメリカのアマチュアスポーツの大会に比べると、とても人間味溢れる全国高校野球選手権大会の抽選会の模様だった。

 しかも最初の抽選会で、大会全体のトーナメント表が彩られるのではなく、更に初戦を勝ち抜いたチームは再び抽選に挑み、2回戦以降の戦いが決まってくる。あくまでも大人が踏み入れずに、選手自らの手で対戦相手を引いていく、これこそ人間味溢れる大会を作り出す要因の一つではないだろうか。

 アメリカのアマチュアスポーツの大会では、先ほど述べたように審査委員会によって決められることが多いが、多くの数字を駆使して機械的な面がある。そのため、特別番組を設けて出場校が発表された後は賛否両論の声がメディアでは溢れてしまう。なぜあの大学は外されたのか?なぜ不利なシード権を与えられたのか?と疑問が絶えない。それに比べて、主将自らが引き当てる抽選会ではそんな声はなく、メディアでは面白い対戦カード、初戦で当たるのがもったいないが注目すべき試合など純粋に一つ一つの試合に視点を置くことが出来る。

 夏の風物詩である高校野球選手権大会がこれほどまでに愛されているのはもちろん今年で100年を迎える歴史もあるだろうが、この抽選会に見られる正々堂々たる人間味溢れる要素が人を惹きつけるのではないかと思う。


<著者プロフィール>
新川 諒(しんかわ りょう)
幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中高を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年は拠点を日本に移し、フリーランスで翻訳家、フリーライターとして活動中。


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