学校・チーム

【前橋育英】荒井直樹監督が貫いた「裸の指導」

2020.9.18

高校野球は、地区大会出場をかけた秋の大会が行われています。昨夏、県史上初の4連覇を果たした前橋育英・荒井直樹監督は、コロナ禍に翻弄された3年生たちから受け継いだ思いや財産を、新チームの力として昇華させたいと考えています。当たり前だった「高校野球」が奪われた夏。荒井監督が再確認したこと、気づいたことについてお話を伺いました。


前橋育英の秋の練習は、授業の一環もあり、引退した3年生が一緒に入って行っている。卒業後に野球を続ける選手、続けない選手、関係なく全員が週に2回グラウンドに集まって練習をするそうだ。荒井監督は今年の3年生にある「変化」を感じたと言う。
「今年の3年生たちは、引退しても顔が変わらないんですよ。甲子園に行って注目されたいとか、目立ちたいとか、そういう思いだけでやってきた子は、夏が終わると燃え尽きます。顔が変わります。でも、今年は、違うんですよね」

「正直、週2回のこの時間が少し憂鬱だった年もありました」と、本音を漏らす。しかし、今年は違う。21人の3年生が、現役のときと同じようにアップをし、同じように声を出し、ノックを受けている。ノックバットを握る手も、力が自然と入ってしまうそうだ。
「毎年3年生には『引退しても3月31日までは前橋育英の生徒なんだぞ。学校に所属している以上、最後まで恥ずかしい行動はするな。それが人としての責任だぞ』と言ってきました。教員でもある清水陽介コーチと毎年同じことを選手に言い続けています。いまの3年生はちゃんとそのことを理解して、高校生活を終えようとしている。そう感じています」

「返事の来ないラブレター」を書き続けている

母校・日大藤沢監督時代から数えると、指導者になって25年目になる。荒井監督がいつも口にしている信念は「裸の指導」だ。「裸」とは「選手たちに真っすぐに、誤魔化さず、全力で向き合うこと」(荒井監督)。

例えば、レギュラー、控え選手関係なく、全員にノックを打つこと。打撃練習の時間を使って、1日1回は選手全員と話しをすること。野球日誌を読んだら、率直な思いを直筆で返信すること。「野球日誌の文字には、その選手の心が現れます。文字が曲がっていたり、薄い字の日は『体調や心が不安なのかな?』と思って心配になります。選手のことを想って赤ペンで返事を書いていく行為は、返事の来ないラブレターを書き続けているようなものですよ」と笑う。


コロナ禍による休校中も、荒井監督の思いは選手たちに届いていたようだ。主将の須永武志(3年・捕手)は「いま大事なことは一日一日を無駄にせず、一人一人が高い意識で練習に取り組むこと」と言い合い、チームをまとめてきた。
「3カ月野球ができなくて、休校明けにどんな顔で学校に来るのかずっと心配していましたが『野球やりてぇ!』と言ってる子が多くて。すごくいい雰囲気でした。『俺、お前らを見て感動してるよ!』って本人たちに思わず言ったくらいです。この経験はこの子たちにとっても、野球部にとっても、今後に必ず生きていくはずです」

夏の群馬県独自大会は準決勝で健大高崎に9-11で敗れたが、あわやコールド負けの窮地から8回裏に1点を入れ、最後は2点差まで追い上げる意地を見せた。荒井監督は感動していた。人前では絶対に泣かない性格だが、3年生を前にした最後のミーティングでは、2013年夏、高橋光成投手(西武)を擁して全国制覇を達成したときも流さなかった涙が、目からこぼれたそうだ。

セカンド送球2秒を切る強肩強打の捕手・須永武志(3年)はJR東海に入社予定。3年後のプロを目指す

3年生たちは「真っすぐに、誤魔化さず、全力で向き合ってくれました。もう、新チームがスタートしています。これからも、子どもたちに裸の心で付き合っていきたいと思います」。甲子園につながらない夏だったからこそ、気づけたことがあった。10月24日、千葉で開幕予定の関東大会出場を目指し、チーム一丸で戦う。(写真・取材/樫本ゆき)

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