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「くまのベースボールフェスタ」レポート

2018.11.26

三重県のほぼ最南端に位置する熊野市。和歌山県との県境に位置しており、2004年に世界遺産登録された熊野古道でも知られている。この熊野市と近隣の高校によって11月に行われているのが『くまのベースボールフェスタ・練習試合in熊野』だ。毎年全国から強豪校が参加しており、今年は11月24日、25日の二日間で行われたが、このイベントをTimely!WEBではおなじみの西尾典文さんがレポートする。


くまのベースボールフェスタが行われるきっかけになったのは2002年に市営くまのスタジアムがオープンしたことである。両翼100メートル、センター122メートル、収容人員6500人を誇る見事な野球場だ。高校野球の三重県大会では主に四日市、津、松坂、伊勢の四球場が会場として使われているが、それらのどの球場よりも広いフィールドを確保している。そしてこの球場をメイン会場に、2005年から11月に大規模な練習試合として行われるようになったのが『くまのベースボールフェスタ・練習試合in熊野』だ。凄いのがその出場する顔ぶれで、今回は下記の15チームが参加した。
 

・三重県以外

羽黒(山形)
健大高崎(群馬)
昌平(埼玉)
関東一(東京)
大府(愛知)
市岐阜商(岐阜)
長野日大(長野)
敦賀気比(福井)
三田松聖(兵庫)
創志学園(岡山)
近大新宮(和歌山)
 

・三重県内

いなべ総合
木本
近大高専
紀南


県外から参加するチームの多くが甲子園出場経験のある高校だがこれも例年のことであり、過去には横浜(神奈川)、智辯和歌山(和歌山)、花巻東(岩手)なども参加している。今回で14回目を迎えるが、この練習試合に参加した選手からこれまで合計55人のプロ野球選手が誕生しており、大谷翔平(現エンゼルス)もその一人だ。
もちろんこれだけのチームの試合をくまのスタジアムだけで行うことは不可能であり、近隣の高校のグラウンドなど5会場が使用されている。熊野市に入ると国道交通省の電光掲示板に『くまのベースボールフェスタ2018 開催中』と表示され、会場の近くには案内の看板やのぼりも至る所に置かれていた。

練習試合ということで主催は県内の野球部となっているが、実際に運営を行っているのは『熊野ベースボールフェスタ実行委員会』である。その中心である山門弘毅実行委員長、大崎順敬事務局長はともに地元の木本高校野球部のOB。二人とも投手出身で、山門委員長は東海大会で2勝を挙げた実績の持ち主である。大崎事務局長は「横浜高校の小倉先生(元部長)も智辯和歌山の高島監督(前監督)も至る所で『くまのに行ってきた』と話してくれて、そのおかげもあって広がっていくようになりました」と話す通り、口コミで広がり毎年や定期的に参加しているチームも少なくないという。過去には前橋育英が初めて参加した翌年の夏に甲子園優勝、敦賀気比も参加した翌年春の選抜で優勝、昨年も羽黒が初参加して夏に15年ぶりの甲子園出場を決めるなど縁起の良い出来事も少なくないという。世界遺産の熊野古道によるご利益を感じているチーム関係者もいるのではないだろうか。



また熊野は紀伊半島でも南端に近いところに位置しており、その温暖な気候は大きな売りである。今回同じ県内から参加していたいなべ総合の尾崎英也監督も「三重県は縦に長いですから。(三重県では北部の)員弁とは全然気候が違って暖かいですよ」と話していたように、11月下旬のこの時期に寒さを考えずに実戦を行える気候は大きな利点と言える。また、10年以上前から参加している関東一の米澤貴光監督は「気候も暖かいし実行委員会の人たちの熱意も凄い。これだけ立派な球場があって、色んな地域のチームとこの時期に試合ができるのはありがたいですよね」と話していた。実行委員会のメンバーは9割が元高校球児であるが、各会場で朝早くから準備する姿は確かに熱意に溢れるものだった。



地元のチームにとっては全国レベルのチームとプレーできるまたとない機会である。パンフレットに記載している開催趣旨にも「(前半略)地域の野球のレベルアップ・スポーツ交流を図ることを目的とする」とあるが、山門委員長の話ではその成果も現れてきているそうだ。実際、2009年に近大高専から鬼屋敷正人がドラフト2位で巨人に入団しており、木本高校はこの秋の地区予選で三重高校を破るなど県大会でベスト8に進出し、三重県の21世紀枠推薦候補にも選ばれている。また現役選手だけでなく、地元の中学生以下の野球少年たちも会場に訪れており、西純矢(創志学園)など甲子園でプレーした選手たちのプレーを熱心に観戦していた。野球人口の減少が叫ばれる中、このような取り組みが果たす役割は非常に大きいと言えるのではないだろうか。来年も既に同じ時期での開催が決まっているそうだが、これからもこの取り組みが長く続いていくことを期待したい。(取材・写真:西尾典文)

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