指導者も選手もファーストネームで

学校長から監督の打診を受けたとき、「家族に相談させてください」と頭を下げた。帰宅後、奥さんに伝えると何の迷いもなく「あなたがやったほうが絶対にいい。桐蔭のためにも、引き受けたほうがいい!」と力強く背中を押されたという。
「おれの何がわかっているんだと思ったんですけど(笑)」
正式な就任は10月21日。土屋監督に電話で報告を入れると、胸に響く言葉をくれた。
「丞太郎くんが、高校生で入学してきたときに、いろんな不安や期待を持っていたと思います。あのときの気持ちを絶対に忘れないで、生徒に接してください」
初心を忘るべからず。
まず、49歳の新人監督が着手したのは、選手とのコミュニケーションを増やすことだった。監督から心を開き、話しやすい雰囲気を作る。
ひとつのルールとして、スタッフも選手もファーストネームで呼び合うことを決めた。小倉監督は「丞(ジョウ)さん」と呼ばれている。
「選手にはこんな話をしました。『誰と甲子園に行くのか。知らないおじさんと行くよりも、一緒に苦労や喜びを分かち合ってきた仲間といったほうが価値は上がる』。監督と選手ではなく、一緒に頑張ってきた仲間と戦いたいと思っています」

寮には週4日泊まり、寮生とひとり20分ほどの面談を毎日している。
「グラウンドだけの時間では、『この選手と話し切れていないなぁ』と思うことがでてきます。それを補うために、『最近どうなの?』という話をよく聞くようにしています」
水曜日の朝には、講義室で全体ミーティングの時間を設けて、1週間のフィードバックと、次の1週間に向けてやるべきことを必ず確認するようになった。小倉監督はこの日に向けて、毎回資料を作成している。
「必ず、先のステップを伝えるようにしています。『今はこの段階だけど、来年4月にはこうなっていてほしいんだ』って。『これができたらこれ』と進んでいきたい」
見通しがなければ、今の練習がどこにつながっているのがわからない。すべての日々は、夏の神奈川で勝つためにある。
「ただ、『甲子園』という言葉はまだ出していません。今の彼らには現実的ではない。まずはひとつひとつ土台を作って、どれだけ堅実な野球ができるかどうか」
選手とともに熱く戦い、名門の強さをもう一度取り戻す。(取材・文:大利実/写真:編集部)
*後編に続きます。
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