でも仮に、タイムマシーンがあれば、指揮官にはもう一度戻りたい時期がある。
「彼らが2年生の冬です。センバツに向かっていくところに戻りたいですね。島貫を中心にものすごく意欲が高く、取り組みに優れた選手が多いチームでした。そのために、ギリギリまで競争をさせて、全員にチャンスをあげたいと思ったんです。その結果、チーム内での競争が激しくなりすぎて、チームの成熟、個の成長にまでは向かわなかった。チャンスを与えることがメインになっていました」
「日本一激しいチーム内競争の先に、日本一がある」
これが、須江監督の揺るがぬ信念である。ただ、チームを作っていく中でメリットもデメリットもあることを実感した。メリットは、すべての選手にメンバー入りの門戸を開いているため、モチベーションが落ちることがなく練習に取り組めること。デメリットは、3年生のプレゼンにあったように、自分と向き合う時間をなかなか取れないことだった。
「レギュラーであっても、常に競争の中にいました。紅白戦や練習試合で数字を残せなければ、メンバーを外れる危機感が常にある。そうなると、自分のフォームと向き合ったり、トレーニングで追い込んだり、新しいことを試すことがどうしても難しくなる。競争を激しくすることが、チームの強さにつながると思っていましたが、センバツで負けて、夏は県大会で負けたことによって、そうではない部分を感じたのはたしかです」
たとえば、ウエイトトレーニングでフィジカルの強化を図りたいと思っても、疲労が溜たまった状態で練習試合に入れば、スイングスピードが落ちるリスクがある。その結果、打率を残せなければ、メンバー争いから脱落する。結果を出さないとメンバーに入れないシステムゆえに、ひとつひとつの取り組みの質が、徐々に落ちてしまう難しさがあった。
「センバツ前の練習でもっと追い込んで、フィジカルや技術を上げることができれば、夏の結果も違ったかもしれません。マネジメント面での監督の失敗です」
やはり、負けに不思議の負けはない。
(続きは書籍でお楽しみください)
「甲子園優勝監督の失敗学」
大利実
KADOKAWA
2024/7/31発売
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