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山本昌氏の実弟・山本秀明日大藤沢高校監督に聞く、レジェンドの素顔と野球観 〜後編〜

2016.4.12


 著書 『ピッチングマニア』にて、自身の投球術を詳細に紹介している山本昌氏。
タイムリー編集部では本人の素顔を知る、関係者二人にインタビューを敢行。
 一人目は実の弟であり、現在神奈川県の日大藤沢高校野球部を指揮する山本秀明監督に話を聞いた。本人の幼少期や投球術など、知られざるエピソードを詳細に語ってもらった。

 ボールが落ちてこないキャッチボール

 ここからは野球の話をしましょうか。
投げることに関する能力は、抜群に高かったと思います。コントロールが非常によく、球の回転もいい。強烈な印象として覚えているのは、「ボールが落ちてこない」ということです。

 プロに進んでからも兄弟でよくキャッチボールをしていましたが、私が構えたミットよりもボール2つ分、上に来るんです。「このあたりに来るだろうな」と構えている位置よりも、上に伸びてくる。軽いキャッチボールであっても、ほかのピッチャーと球の伸びが全然違いました。
でも、身体能力が高かったとは思いません。足も速くないですしね。とにかく、投げることだけはすごかったです。
 
 私が2004年に日大藤沢高の監督に就いてから、兄も気にかけてくれるようになりました。「何で、あんなところで負けているんだよ」「今年、横浜強いんだって?」「あそこのピッチャーいいらしいね」とか、電話でいろいろと話すようになりました。
 
 翌年(2005年)にプロ野球選手の母校での自主トレが解禁されてからは、毎年1月4日に学校に来てくれていました。
最近、一番驚いたのは、高校で使う試合球を投げていたときの反応です。昌兄がキャッチボールを始めると、「秀明、このボール、スライドしない?」と聞いてくるんです。私にはきれいなバックスピンがかかっているようにしか見えなかったんですけど、「このボールさぁ……」と首をひねっている。本人が持ってきていたプロの試合球を投げると、「ほら、全然違うだろう」と言うわけです。正直、見ていた私にはその違いがわかりませんでした。それだけ、投げる感覚に優れているということなのでしょう。

 あとは、間近でキャッチボールを見ると、ボールを離すタイミングの良さに感動します。着地した前足にしっかりと体重を乗せてから、リリースするまでの体の使い方がうまい。リリース時にしっかりとボールに力が伝わっている。この感覚を私が生徒たちに伝えようとするのですが、なかなか伝わりきらず… 高校生がやると最後の最後に手だけで投げてしまうのです。


 「この子いいね。勝てるよ」監督の隣でつぶやいた何気ない一言

 本人とキャッチボールをしていて特徴的なのは、マウンドでのピッチングとは、全然違う投げ方をすることです。耳の横からリリースするような意識で、極端なオーバースローで投げている。おそらくですけど、手首を立てて、上から投げる意識を持っているのだと思います。
「手首を立てる」という感覚は、実は私も高校生を指導するときに、大事にしている点です。
 
 現役のシーズン中、横浜スタジアムでの試合後などに、ふらっと練習を見に来たことがありました。といっても、年に1~2回ですけどね。遠目でピッチング練習を見ているときに、「この子いいね。勝てるよ」と言ったピッチャーが実は2人いました。

 1人が2007年にセンバツに出場したときの左腕・古谷真紘で、もうひとりが2008年秋の関東大会に出場したときの石垣駿。大会での結果が出る前に、兄は「あのピッチャーだったら勝てるよ」と評価をしていました。
 
 では、どこを見ていたのでしょうか。ちらっと聞いたのは、トップの位置がしっかりと決まっていることと、本人が投げるときに大事にしていた「手首が立っている」ことでした。

 兄の影響というわけではないですが、私も中学生のピッチャーを見るときは手首が立っているかどうかを気にしています。クセがついてから「手首を立てなさい」と指導するとどうしても力が入ってしまうので、幼い頃から自然に立っているピッチャーが理想なんです。でも、なかなかいませんね。スライダーを投げるピッチャーほど手首が寝て、ストレートも伸びなくなってしまう弊害はあると思います。

 本人の著書『ピッチングマニア』のなかにも「スライダー=腐ったミカン」と書いてありますね。スライダーは便利な球種である反面、手首が寝やすく、ストレートに悪影響をもたらす球種ともいえるでしょう。 


 ピッチャーに大切な「ラインを作る」ことの重要性
 
 兄は「ラインを作る」という感覚も大事にしていたようです。
 投げたい方向に、しっかりと体を向けていく。ただ、高校生に「ライン」といってもなかなかわからないところもあるので、私は「力の方向性」という言葉に置き変えて伝えています。

 2011年夏にベスト4に入ったときの池田建人は、右バッターのアウトコースであればいつでもストライクを取れる安定感がありました。その方向に向かって、きれいなラインができていたのです。これは、ボールを受けているキャッチャーが一番よくわかるところですが、どんなピッチャーであっても、腕を振ったときにボールがいきやすいラインがあります。
 たとえば、軸足のヒザが曲がって、インステップする右ピッチャーであれば、右バッターのインコースにボールがいきやすい。力の方向が、そこに向いているからです。このラインを見つけて、ストライクを取れるコースを作っていくのは、バッテリーとして非常に大事なことだと思います。
 
 現役引退後の昌兄は、解説者として活躍していますね。ニュース番組の出演も多い。本人は「今年頑張らないといけない」と熱心に勉強していると聞きました。
やっぱりいずれは指導者として、野球界に戻ってきてほしいですよね。私のなかでは、いつまでも尊敬できる偉大な兄なのでいつの日か一緒にまた野球をやりたいですね。

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