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【仙台高校】宮城の公立校に現れた143キロ左腕・佐藤隼輔

2017.5.23
仙台高校の左腕エース佐藤隼輔
まだまだ発展途上。速球に磨きをかける仙台の左腕エース佐藤隼輔

杜の都に現れたプロ注目の文武両道左腕

◆目 次◆

6球団以上がマークする逸材

速球を作り出した「的あて」の練習

速い球を投げるために大切なのは「身体のバネ」

目標は「速い投手」ではなく「勝てる投手」

6球団以上がマークする逸材

スピードガンが「143キロ」を計測した。

4月29日、宮城県中部地区予選準々決勝。仙台育英戦(Koboパーク宮城)でのことだ。「いいピッチャーですね…。将来性を感じます」
仙台・佐藤隼輔(=しゅんすけ・3年)を見た巨人・柏田貴史スカウト(46)は、一目でその可能性を感じ、手帳にメモを書き入れた。180センチ、77キロ。長身から、威力ある速球と、キレのあるスライダーを投げ込み仙台育英に真っ向勝負した。8回7安打、2失点。0-2で敗れたが、失投を捕らえられたのは8回、4番佐川光明(3年)への内角直球のみ(結果は右前2点適時打)。全国屈指の好打者、1番西巻賢二(3年)も4打数無安打に封じ込み、相手エース・長谷川拓帆(3年)の8を上回る9奪三振を記録した。

仙台育英戦で143キロを計測した仙台高校の左腕エース佐藤隼輔
相手が格上なほど燃える性格。143キロを計測した仙台育英戦は「自分でも実感があった」

マスクを被る笹口大輝主将(3年)は「負けて悔しいし、反省はありますが、隼輔が投げれば3点以内に抑えられる。育英にもこのくらいの試合ができるんだと自信になりました」と手ごたえを口にした。まだまだ未完成ではあるが、現在6球団以上のスカウトがマークする新たなスター候補。それが佐藤隼輔だ。

速球を作り出した「的あて」の練習

「育英戦での最速(143キロ)は自分でも実感がありました」

 
冷静な口調で佐藤が振り返った。もともと球速にこだわりはないと言う。143キロと聞いても「特に感想は…。ああそうか、くらいですかね」とクールに笑う。もちろん、球速に興味がないわけではない。これまでやって来たことの積み重ねが自己最速につながった。その手ごたえを自分の中で実感しているから、冷静に自分を分析できるのだろう。自己分析は続く。

「最近、下半身が使えていることが安定感につながっていると思います。フォームを安定させるためにセットポジションに変えて、ヒジの位置と下半身のバランスを石垣先生(光朗監督=53)と、笹口(捕手)にチェックしてもらい、修正しました。2年の秋はフォームが安定せず、打たれるとどんどん力んでしまい、修正することができませんでした。そういう意味で、強い精神力と力まない投球。力を抜いてでも、伸びのある球を投げるために、この冬は課題に取り組んできました」。

石垣監督と話す仙台高校のエース佐藤隼輔
プルペンに入るのは週4回。30~80球の球数を曜日に合わせて投げ込んでいる(写真左は石垣監督)

具体的な練習方法が投手陣全員で行う「的あて」だ。室内練習場の天井からヒモでつるしたバドミントンの羽根を、5m離れた位置からボールを投げて当てるという冬季練習。羽根の高さはバッターのヒザ元真ん中くらい。命中するまで何度も投げ続け、3回連続で当たったらクリアとした。クリアした者は、さらに2・5メートル下がって投げる。12,5メートルまで下がり、そこでも3回連続で当てたらオールクリアとなる。最初はどの投手も的に当たらず苦労した。佐藤は「制球力のいいピッチャーが、自分より先にクリアして行きました。雪でグラウンドが使えない日も毎日この練習をしていたので、それで制球力が付いたのだと思います」。

爪が割れるのを予防するために佐藤の左の人差し指と中指に塗られたマニキュア
試合への準備は怠らない佐藤。爪が割れるのを予防するため、左の人差し指と、中指はマニキュアを塗っている

自主練習を行い、じっくり課題と向き合った冬。石垣監督は自尊心の強い佐藤を適切な距離から見守りながら「身体も心も、軸がぶれてはいけないよ。どうしたらいいか自分で考えなさい」とアドバイスを送った。「軸」を作るために、米などの炭水化物を多くとり、64キロだった体重を77キロまで増量した。トレーニングで下半身が強くなり、地区予選4試合で2完封、30回2/3で35奪三振を奪い県大会進出。昨秋の地区予選敗退という挫折が遠回りではなかったことを証明した。

速い球を投げるために大切なのは「身体のバネ」

佐藤の公式戦デビューは華々しいものだった。2015年夏。宮城大会初日となった1回戦(対宮城広瀬)で、“開幕投手”としてKoboスタジアム宮城のマウンドに立った。当時まだ1年生。しかし球速はすでに135キロを記録していた。2回戦の仙台育英戦で1-12の敗戦(佐藤は3番手で登板)。2年夏は佐沼に4回戦敗退(2失点完投)。思うように勝ち進めない時も、捕手笹口と対話を重ね、ひたむきに練習に取り組んできた。

キャッチャーにコンバートした仙台高校の笹口主将
この秋、サードから中学時代の定位置、キャッチャーにコンバートした笹口主将が佐藤を盛り立てる

ピッチャーなら誰もが持つ「速球投手」への憧れ。ケガなく、球速8キロアップに成功した佐藤に「速い球を投げるには、何が1番大切か?」と質問すると「身体のバネ、だと思います」と即答した。
「バネというのは、投球動作の時、最大に溜めた力をリリースの瞬間に集中して出力するイメージです。球が速いピッチャーを見ていると、ただ速いだけじゃなくて、伸びがあるような。自分の感覚的な印象なんですが『バーン』って、いう勢いを感じます」。自分にそのバネがあるかと聞くと「わかりません。いま『何が大切か』と質問されたので、そう答えただけで、具体的には自分ができているかどうかは、ちょっと…」と正直に答えた。しかしながら、持って生まれた腕の長さと、強くてなめらかなしなり。最大出力を生みだす要素はそろっていたはず。そこに、フォームの安定と、身長2センチ、体重10キロ以上の増加が融合して、ごく自然な形で球速の上昇曲線を描いて行ったのだろう。

目標は「速い投手」ではなく「勝てる投手」

笹口と佐藤の仙台高校バッテリー
捕手の笹口(写真右)は「今まで出会った中で、1番いいピッチャー」。コンビを組むことに使命感を燃やしている

「夏までに体重を80キロまで増やしたい」と言う佐藤。目標は「速い投手」ではなく「勝てる投手」。「スピード、コントロール、キレ。全てにおいてレベルアップして、育英に勝てるくらいの投手になりたいです」と意欲を燃やす。

広瀬中時代、エースで東北大会準優勝を果たしながら、文武両道に憧れて公立校を選んだ野球道。プロからの評価を素直に喜ぶが、その声に一喜一憂しない冷静さも持ち合わせる。多角的な野球観を貫きながら、チーム一丸となって19年ぶりの甲子園出場を狙う。(取材・撮影/樫本ゆき)


◆PROFILE
佐藤隼輔(さとう・しゅんすけ)
2000年1月3日生まれ。愛子小4年から愛子スポーツ少年野球団で野球を始める。小6の12月〜広瀬中1年夏まではリトルリーグ「折立スパローズ」に所
属し全国選抜大会優勝。広瀬中野球部で東北大会準優勝。宮城県選抜に選出。仙台高1年夏、背番号18で宮城大会開幕試合(対宮城広瀬)に登板。最速135キロを計測し、9回3失点9奪三振で完投勝利を果たす。高2秋から背番号1。家族は両親、姉。180センチ、77キロ。左投左打。血液型B型。趣味は特になし。好きな音楽は洋楽(ザ・チェインスモーカーズ)。

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