企画

【瀬谷高校野球部監督・平野太一】グローバルスタンダードを知り、日本の野球との融合を考える(ドミニカ1日目)

2017.2.3

神奈川県立瀬谷高等学校硬式野球部監督・平野太一と申します。

この度、様々な想いや経緯があり、『ドミニカ共和国』に野球・文化を学びに行きました。その学びをぜひシェアしたいと考えていたところ、Timely!WEBさんにお声掛けいただき、このような掲載をさせていただく運びとなりました。よろしくお願いいたします。

一投一打に驚喜するドミニカの人たち

◆目 次◆

野球が生活の中にある国、ドミニカ

契約金1億2千万円の16歳は変化球が打てない!?

プライドを捨てて選手たちを鼓舞する監督の姿

ドミニカで考えた「当たり前」

交通事情から学んだ「察する力」

野球が生活の中にある国、ドミニカ

成田→シカゴ→マイアミと経由し、約1日以上かけドミニカ共和国に到着。現地を案内していただく阪長友仁氏と合流し、ドミニカの学びが始まった。

移動は車。首都サント・ドミンゴから「やってるかわからないけど、その辺に球場あるから寄ってみようか。」ということで移動開始。少し道らしい道を走ったのち、細い住宅地に入り、そこで停車。こんな住宅地のど真ん中でどうしたんだろうと思っていると、そこになんと球場が!

周りは民家、防球ネットもなく、車も真横を走っている。『近所の小さな公園』ぐらいの感覚で球場があるような感じ。球場の立地にまず驚いた。

そこで行われていたのは隣接する街の草野球チーム同士の定期戦。正月に草野球をやっているというのも日本ではなかなかないことだと思う。
観客席には町の住民たちがたくさん。正月早々の草野球にこんなに人が集まるのか?というほど。また民家の屋根いっぱいに子どもたちが登って、そこから観戦。私の常識にはない観戦方法だ。

契約金1億2千万円の16歳は変化球が打てない!?

予定の開始時間はとっくに過ぎているが、徐々にアップをしながらノンビリした雰囲気の中、試合開始。この辺りはラテンのイメージ通りといったところだろうか。
そのとき、ふとしなやかな動きをしているショートを守る若者が気になった。たまたま観客席に居合わせた阪長氏の知り合いのコーチの話では「あの若い選手は16歳。某MLBと契約してアカデミーに上がったんだ。契約金は1億2000万円だよ。」と。(今回の旅は阪長氏が通訳も担ってくれている。)

しなやかな動きに柔らかなハンドリングが見られた内野の守備練習


1億2000万?日本であればドラフト1位で1億円なので、それをも上回る。そんな選手が何気なく立ち寄った町の草野球チームにいるんだと驚いた。しなやかな動きに柔らかなハンドリング、守備の動きはいい。だが、その選手が打席に立つと、変化球のボール球に手を出し三振。少し拍子抜け。
「MLBアカデミーと契約するには、まずは守備なんだ。打つことはこれからどうにでもなることだから。特に変化球なんてこんなに若いのに打てる訳ないよ。(笑)」とのこと。どうしてもMLBやラテンアメリカの野球というと攻撃的なイメージがあるが、「まずは守備」という発想は全く想定していなかった。また、16歳で1億2000万円の契約選手が変化球が打てないなんて、日本の高校生のドラフト選手にはまずあり得ない。この辺にも育成方法の違いがありそうだ。(後にこの疑問点も解決することになる。詳細は次回以降で。)

試合途中、立ち見している観客の中にマイアミマーリンズでイチローの同僚、クリンナップも打つマーセル・オズーナが。「え?スーパースターがこの草野球を観に来くるの?」と驚いた。オズーナはこの地区の出身らしい。さらに驚いたのは、周囲の人たちがあまり騒がないこと。日本ならサイン攻めにでも会いそうなものだが、町の人たちも「今シーズンもお疲れさん」ぐらいのテンションだ。

球場然り、正月早々の野球然り、メジャーリーガー然り、『野球が文化に根付いている』とはこういうことを言うのだろう。

プライドを捨てて選手たちを鼓舞する監督の姿

町の草野球を観たあとは、移動して今度は運動公園の中の球場で行われている草野球。
ここでも試合はなかなか始まらない。やはり時間はルーズ、というよりあまり気にしない。「こんなもんだよ。ノンビリいこうぜ。」日本の高校野球で指導しているとなかなか受け入れられない感覚だ。

さぁ試合開始。先ほどの町の草野球のレベルが特別高いのではないということを改めて思い知らされる。先発投手の左腕は少し制球に難はあるが、しなやかな動きから140km/hは優に超えているストレートをバンバン投げ、決め球のスライダーのキレも素晴らしい。さらにそのボールを打つ打者たち。

また、ここで勉強になったのは監督の姿だ。盛り上げどころやピンチになると、ベンチの1番前に立ち、全員を鼓舞する。大きなリアクションで手を叩き「さぁここだぞ!頑張ろう!」と言っているのだろう、とにかく選手たちを盛り上げる。日本の監督では見たことがない姿であった。阪長氏は「多少の違いはあるけども、基本的にはドミニカの監督は選手がプレーしやすい雰囲気を作り出だす。あの監督も自分がピエロになって選手たちを鼓舞しているんだよ。」と話してくれた。思わず選手のプレーでなく、ずっと監督の動きに目を奪われていた。
私は自分のプライドなのか、監督像の固定観念なのか、『監督はこうでなければならない』というものがある。監督とは何なのかをもう一度考えてみよう、と自分と向き合うキッカケとなった。

指導者とのマンツーマンのバッティング練習

ドミニカで考えた「当たり前」

民家の間に球場があるのが当たり前の文化。
正月に野球をするのが当たり前の文化。
それをたくさんの人が応援に駆けつけるのが当たり前の文化。
1億円以上の契約をする16歳がいて、さらに草野球をやっているのが当たり前の文化。
マイナーリーガーが混じりながら、一般人も草野球をやっているのが当たり前の文化。
メジャーリーガーがその辺にいるのが当たり前の文化。
監督が選手たちを励まし、盛り上げることが当たり前の文化。

当たり前をどこに設定するか、何を当たり前だと感じるかによって人生は変わってくる』そんなことを感じた1日目であった。日本の当たり前、高校野球指導の当たり前をもう一度考え直してみようと思う。

交通事情から学んだ「察する力」

ドミニカの交通事情は思ったよりも交通量が多く、中でもバイクに乗っている割合が日本より多い。交通ルールはあってないようなもの。逆走・割り込みが多く、ヘルメットをしていない、また免許を持っているのか疑ってしまうぐらいの小さな子どもが乗っていたりと驚愕の状態。信号も本当に少ない。だが、不思議と事故は少ないらしい。

例えば、割り込んで来ても抜群のタイミングで止まってうまく割り込ませたり、逆にうまく割り込んだり。信号がなくとも、うまく譲り合って(?)事故を回避しながら交通が成立している。本来の危険回避の本質を見た気がした。

日本は“平和ボケしている”とよく言うが、こういう危険を察知する感性や感性する力は本当に乏しいかもしれない。野球も同じ。安全に越したことはないが、周囲が過保護にし過ぎて、本人の危険回避能力の育成を妨げてはいないか?

うちの選手にも多く、よく叱るのだが、打撃練習時に危険なタイミングでゲージに出入りしたり、周りを見ていない、察していなからこそのヒヤリ・ハットも練習中に多い。

指導者のケガや事故のリスクヘッジも大切だが、子どもたち自身でのリスクヘッジ力もなければ危険だ。どうも今の日本は大人や教員が手を貸し過ぎるところがあるやに感じる。
ドミニカの妙なところからも学びを得た。

これで1日目が終了であるが、初日から驚きや学びの連続で、この後どんなことが待っているのか。

次回へつづく。


平野太一
1985.5.23(31歳)
大分県立別府鶴見丘高等学校 → 川崎医療福祉大学(中国地区大学野球連盟1部リーグ)
大学3年秋季1部リーグ戦にて首位打者(.471)、ベストナイン(三塁手)を獲得。
【監督歴】
神奈川県立津久井浜高等学校 → 神奈川県立瀬谷高等学校