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明治神宮大会レポート(印象に残った野手篇)

2016.11.18

 秋の日本一を決める明治神宮野球大会。第3回は前回の投手編に続き、「印象に残った野手編」をレポートします。


 大会前から話題の中心となっていたのはやはり清宮幸太郎(早実・2年・一塁手・184cm・97㎏・右投左打)。東京都大会の決勝ではまさかの5打席連続三振を喫したこともあり、弱点を指摘する声も聞かれたが、終わってみれば3試合で7打数5安打、1本塁打、7四死球で打率.714、出塁率.857という見事な成績を残して見せた。1年生の頃から厳しいマークに合ってきたということもあるが、誘うようなボール球には手を出さず、少ないストライクを確実にしとめようという意識を強く感じる。それを可能にしているのがタイミングをとる動きが小さく、コンパクトな振り出しのスイングだ。少しバットを揺らす動きはあるものの、上半身はリラックスしておりインパクトの一瞬に力を集中することができている。元々柔らかさが持ち味だったが力強さも確実にアップしている。体型や風貌から足が遅いように見られがちだが、準決勝で放ったツーベースの二塁到達では8.10秒をマークしており、脚力も持ち合わせている(※二塁到達は8.30秒を切れば速いレベル)。何よりこれだけ注目される中で結果を残し続けるのはやはり並ではない。春以降も最注目選手という評価は変わらないだろう。

 清宮と並ぶスラッガーとして注目を集めた安田尚憲(履正社・2年・三塁手・188cm・92㎏・右投左打)も決勝戦でライト中段へ運ぶスリーランを放つなど前評判通りの活躍を見せた。今年の春頃までは力任せなスイングが目立ったが、今はしっかりと下半身を使ってタイミングをとり、ボールを呼び込もうとする意識が強く感じられる。体の大きさと打席での迫力は清宮以上のものがあり、少し近いポイントから力で押し込んで飛ばすスタイルはイ・スンヨプ(元巨人など)を彷彿とさせる。スイングの柔らかさと確実性は清宮に少し劣るものの、スラッガーとしての素質は双璧と言えるだろう。

 この二人以外にも今大会では各ポジションで好選手が目立った。捕手で圧倒的な存在感を見せたのが古賀悠斗(福岡大大濠・2年・捕手・174cm・74㎏・右投右打)。素早く動いて速く正確に投げられるスローイングは圧巻で、イニング間のセカンド送球では今大会で大学生も含めてただ一人1.8秒台をマークした(※捕手のセカンド送球は2.0秒を切れば強肩のレベル)。夏まではショートでも目立つ選手だったが、捕手にコンバートされてわずか3ヵ月でこのレベルの送球というのは末恐ろしいものがある。打つ方も少し粗さはあるもののパンチ力は申し分なく、初戦で一発を放ち準決勝でも三方向に打ち分けて3安打と見事な活躍を見せた。高校生の捕手ではトップクラスの選手と言えるだろう。

 リードオフマンタイプでは鈴木萌斗(作新学院・2年・中堅手・182cm・75㎏・右投左打)と大石哲平(静岡・2年・三塁手・168cm・68㎏・右投左打)の二人のトップバッターが印象に残った。鈴木は全国制覇した旧チームでも春は1番を任せられており、どんどん加速するランニングは迫力十分。打球への反応も鋭く、センターの守備範囲の広さも高校生では群を抜いている。打撃の確実性が課題だったが、今大会では1回戦で3安打を放ち成長を見せた。スイングの形はいいだけに、スピードを残したままパワーアップすれば更に怖い選手になるだろう。
大石はヒットこそ出なかったものの4度の内野ゴロの一塁到達は全て4.20秒未満をマークする俊足が光った。上背はないものの体つきはたくましく、決して当てにいかずに強く振り切る姿勢も好感が持てる。ステップに少し迷いが見られ、抜くボールに苦労する点が課題だ。

 内野の要であるショートで抜群の存在感を見せたのが嶋谷将平(宇部鴻城・2年・遊撃手・177cm・70㎏・右投右打)だ。初戦で札幌第一に敗れたものの、6度の守備機会を確実に処理。特に高々と跳ねた二遊間のゴロを素早いフットワークで追いついてベースを踏み、間髪入れない鋭い送球で併殺を完成させたプレーには観客席からどよめきが起きる鮮やかさだった。センバツ出場のかかった中国大会準決勝でも最終回に1点差に追い上げられた後に、抜ければ同点という三遊間の深い当たりをぎりぎりで追いつき、見事な送球で試合を締めるプレーを見せている。打撃は強いリストを使い過ぎようとしてヘッドが中に入るのは気になるが、低めは滅法強く強烈に引っ張れるのは魅力だ。センスの良さは間違いないだけに攻守ともに更に確実性をアップしていけば、有力なドラフト候補に浮上する可能性は十分だ。

嶋谷将平(宇部鴻城)嶋谷将平(宇部鴻城)*写真は中国大会

 三拍子揃ったタイプでは夏の甲子園でも強打を見せた西浦颯大(明徳義塾・2年・右翼手・175cm・70㎏・右投左打)が印象に残った。2試合で8打数1安打と結果はもうひとつだったものの、右肩が開かずに内から鋭く振り出せるスイングのキレは高校生離れしている。福岡大大濠のエース三浦のチェンジアップに対して体を残してレフト前に運んだ一打は技術の高さが凝縮されていた。ライトから見せる強肩と俊足も高いレベルにあり、西日本の野手では屈指の存在と言えるだろう。

西浦颯大(明徳義塾)西浦颯大(明徳義塾)*写真は四国大会

 若林将平(履正社・2年・左翼手・181cm・86㎏・右投右打)、野村大樹(早実・1年・三塁手・172cm・80㎏・右投右打)、東怜央(福岡大大濠・2年・一塁手・181cm・88㎏・右投右打)の三人は右の強打者タイプ。若林は懐が深く、しっかり呼び込んで強く引っ張る打撃が持ち味。全試合でヒットを放ちチームの優勝に貢献した。
野村は準決勝で一発を含む3安打であわやサイクルヒットの大活躍。下半身の強いスイングで、打球の速さと飛距離はとても1年生とは思えない。東は社会人選手のようなたくましい体つきで、打席での迫力は抜群。九州大会から不振で神宮大会でもノーヒットに終わったが、強烈な打球で相手にプレッシャーを与えていた。三人とも守備、走塁に特徴がないのは残念だが、右打ちの強打者はプロからの需要も高いだけに今後も注目していきたい。


西尾典文(にしお・のりふみ)

1979年、愛知県生まれ。大学まで野球部でプレーし、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。大学院在学中から技術解析などをテーマに野球雑誌に寄稿を開始。大学院修了後も高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間約300試合を観戦し、『Timely!』、『アマチュア野球』、『ホームラン』などの雑誌を中心に寄稿している。ライター業以外にも2015年、選手とチーム・企業を繋ぐwebのスポーツマッチングサービス、『Lifull Scouting(ライフルスカウティング)』を立ち上げ、運営を行っている。



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