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明治神宮大会レポート(印象に残った投手篇)

2016.11.17

 秋の日本一を決める明治神宮野球大会。前回の大会総括に続き、今回は「印象に残った投手編」をレポートします。


 昨年の大会に出場した投手は高山優希(大阪桐蔭・日本ハム5位)、高田萌生(創志学園・巨人5位)、藤嶋健人(東邦・中日5位)、山崎颯一郎(敦賀気比・オリックス6位)、堀岡隼人(青森山田・巨人育成7位)と実に5人がプロ入りを果たしたが、今年はそれに比べると全体的に投手のレベルは低い印象を受けた。

優勝した履正社が3人、準優勝の早実が4人の投手を起用していたことも、絶対的な力を持った投手の不在を象徴している。ただそんな中でもエースらしい見事な投球を見せたのが福岡大大堀三浦銀二(2年・175cm・70㎏・右投右打)だ。九州大会の4試合を一人で投げ抜き3完封をマークした実力は本物で、初戦では明徳義塾を相手に4安打完封と見事な全国デビューを飾ってみせた。体は決して大きくないものの、下半身の強い安定したフォームで130km台後半のストレートをコーナーにきっちりと投げ分けることができている。腕を振って内角に速いボールを投げられるというのは大きな長所だ。100km台の大きなカーブで緩急をつけられるのも大きい。フォームに目立った欠点がないだけに、体が大きくなれば球威もまだまだアップするだろう。課題は決め球となる変化球。スライダーとチェンジアップのキレがもうひとつで、準決勝で早実を相手に8回で175球を要したようにストレートが走らないとどうしても苦しくなる。体力強化だけでなく、変化球のレベルアップにも取り組んでもらいたい。

 大会期間中に大きな成長を見せたのが優勝した履正社のエース、竹田祐(2年・182cm・83㎏・右投右打)だ。最大の特長は左肩がぎりぎりまで全く開かないフォーム。腕の振りも体から近く、打者からするといきなりボールが出てくるように見えるのでどうしても対応が遅くなる。全体的に上手く力を抜いており、楽に腕を振ってストレートと変化球を投げ分ける技術は高校生では上位だ。ステップの幅が狭く、ストレートの勢いには物足りなさがあるものの、決勝戦では終盤にかけて一気にペースアップし、自己最速となる145kmもマークした。清宮の最終打席に144kmのストレートで打ち取ったことも大きな自信となったはずだ。このピッチングを安定してできるようになれば、ドラフト戦線に浮上してくることも十分に考えられるだろう。

 ともに初戦で敗れたものの静岡池谷蒼大(2年・173cm・74㎏・左投左打)と仙台育英長谷川拓帆(2年・177cm・80㎏・左投左打)のサウスポー二人も将来が楽しみな投手だ。池谷の良さは腕の振り。テイクバックでスムーズに肘が上がり、高い位置から楽に鋭く腕を振ることができるため、上背以上にボールの角度がある。それに加えて落差の大きいカーブを操るため、打者はどうしても目線が上がってしまい低めのボールについていくことができない。軸足の左膝が折れるのが少し早く、右手を高く上げるフォームのため少しリリースが安定しないのが課題。東海大会では27回2/3でわずか4四死球だったものの、早実戦では厳しいコースを狙い過ぎて8回で7四死球と崩れただけに、全国の強力打線を相手にするにはコントロールを更にもう一段階レベルアップする必要があるだろう。
長谷川はがっちりとした体格から重いストレートを投げ込む馬力型の投手。履正社戦は序盤からコンスタントに140km前後のスピードをマークし、強力打線を5回までは2安打に封じ込めた。課題はロスの多いフォーム。上半身の力に頼るため、どうしてもスムーズさには欠ける。肩を左右に振る動きもあるため、抜けたり引っかかったりするボールも目立った。下半身の強さもあるだけに、もう少し脱力してムダな動きをなくすことができれば更に馬力が生きてくるだろう。

 現時点で注目投手と呼べるのはこの四人。その他にも抜群のブレーキを誇るチェンジアップが武器の北本佑斗(明徳義塾・2年・170cm・70㎏・左投左打)、エースの竹田と同じく開かないフォームが光る田中雷大(履正社・2年・177cm・81㎏・右投右打)、野手ながら140km近いのスピードをマークした佐川光明(仙台育英・2年・中堅手・170cm・69㎏・左投左打)、西巻賢二(仙台育英・2年・遊撃手・167cm・60㎏・右投右打)、荒武悠大宇部鴻城・2年・一塁手・174cm・77㎏・左投左打)など面白い選手はいたが、やはり打高投低の感は否めなかった。“春は投手力”と昔から言われるだけに、この冬での全体的なレベルアップに期待したい。

 次回は「印象に残った野手編」をレポートします。


【明治神宮大会スピードランキング】

竹田祐(履正社・2年・182cm・83㎏・右投右打):145km
長谷川拓帆(仙台育英・2年・177cm・80㎏・左投左打):143km
三浦銀二(福岡大大濠・2年・175cm・70㎏・右投右打):141km
佐川光明(仙台育英・2年・170cm・69㎏・左投左打):140km
田中雷大(履正社・2年・177cm・81㎏・右投右打):139km
西巻賢二(仙台育英・2年・167cm・60㎏・右投右打):139km
池谷蒼大(静岡・2年・173cm・74㎏・左投左打):138km
荒武悠大(宇部鴻城・2年・174cm・77㎏・左投左打):137km
服部雅生(早実・2年・184cm・80㎏・右投右打):136km
中川広渡(早実・2年・173cm・80㎏・右投右打):135km

※参考:大学の部のトップ
小野泰己(富士大・4年・183cm・77㎏・右投右打):152km
星知弥(明治大・4年・181cm・85㎏・右投右打):152km


西尾典文(にしお・のりふみ)

1979年、愛知県生まれ。大学まで野球部でプレーし、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。大学院在学中から技術解析などをテーマに野球雑誌に寄稿を開始。大学院修了後も高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間約300試合を観戦し、『Timely!』、『アマチュア野球』、『ホームラン』などの雑誌を中心に寄稿している。ライター業以外にも2015年、選手とチーム・企業を繋ぐwebのスポーツマッチングサービス、『Lifull Scouting(ライフルスカウティング)』を立ち上げ、運営を行っている。



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