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明治神宮大会レポート(大会総括篇)

2016.11.16

 全国10の地区大会を勝ち抜いた優勝校が集い、秋の日本一を決める明治神宮野球大会。高校の部は11月11日から5日間で熱戦が繰り広げられ、清宮幸太郎を擁する早稲田実業(以下早実)が登場するということもあり、連日多くの高校野球ファンが神宮球場につめかけた。その熱戦の模様を三回に分けてレポートするが、第一回の今回はまず大会全体の総括をお届けする。


 大会前は飛び抜けた優勝候補は不在で混戦が予想されたが、その予想通りコールドゲームはゼロ。9試合中5試合が2点差以内と接戦が多い大会となった。そんな中でも一番の盛り上がりを見せたのは履正社と早実の決勝戦だ。大会最大のスターである清宮(早実)がいきなり初回に先制ホームランを放つと、西日本ナンバーワンスラッガーである安田尚憲(履正社・2年)が3回にスリーランを放ち逆転。その裏に早実が清宮のタイムリーなどで5点を返して再逆転するとその直後に履正社が集中打で一挙7点を奪うなど序盤から息つく間もないほどの激しい乱打戦となった。
 試合はその後、3回途中から三番手で登板した履正社のエース竹田祐(2年)が早実の反撃をかわしてそのまま11対6で逃げ切り初優勝を飾ったが、4回までのあまりに強烈な点の取り合いは今後も語り継がれることだろう。

優勝した履正社は3番の安田、4番の若林将平(2年)の中軸を中心とした打撃のチーム。初戦の仙台育英戦は4安打、2回戦の福井工大福井戦は5安打と大会序盤は硬さが見られたが準決勝、決勝と調子を上げて見事初の栄冠をつかみとった。決勝戦では7番片山悠が試合を決めるスリーランを放つなど下位まで力のある打者が並んでいる。そしてそれ以上に大きかったのがエース竹田の成長だろう。初戦で難敵の仙台育英相手に1失点で完投勝利を収めると、その後の三試合は全てリリーフで試合を締めた。決勝戦で自己最速の145kmをマークして早実打線を抑えきったことは大きな自信となったはずだ。

 準優勝の早実もタイプ的には履正社とよく似ている。3番の清宮と4番の野村大樹(1年)という二人の超高校級打者を擁しているが、しぶとい打者が多く初戦の静岡戦は5打点全てを5番以降が叩き出した。中心の清宮と野村も自分で決めてやるという姿勢ではなく、1回戦では野村が4四死球、準決勝では清宮が4四死球を選ぶなど繋ぐ意識が徹底されていることも強みだ。
 履正社との差はやはり投手力。大会を通じてタイプの違う4投手を起用して決勝まで勝ち上がったが、いずれも球威不足で目先を変えてなんとか凌いでいるという印象は否めない。センバツで優勝を狙うには春までに投手陣全体の底上げが必要になるだろう。

 他のチームに目を移すと、ともに決勝に進んだ二校に初戦で敗れた仙台育英と静岡のポテンシャルの高さが光った。仙台育英は捕手の尾崎拓海(2年)とショートの西巻賢二(2年)が攻守の中心選手。打つ方は履正社の竹田に抑え込まれたが、毎回のようにあったピンチを凌いで終盤まで何とか点差を離されずについていく戦いが光った。エースの長谷川拓帆(2年)が6回までに8四球と安定しなかったのが大きな誤算だった。
 静岡は履正社、早実に見劣りしない強力打線が持ち味。特に上位打線は全員が振りが力強く、早実戦の初回に二死走者なしからクリーンアップの三連打で先制した攻撃は見事だった。こちらも仙台育英と同様にエース池谷蒼大が7四球と崩れたのが痛かった。東海大会では見事なピッチングを見せていただけにセンバツでのリベンジに期待したい。

 この二校に続く存在に見えたのが福岡大大濠明徳義塾の2チーム。福岡大大濠はエースの三浦銀二(2年)と捕手の古賀悠斗(2年)のバッテリーを中心とした守りが光った。三浦に続く投手と打線の底上げが課題となる。
 明徳義塾は機動力が光った。数年前までは脚力がある選手がいても走塁の意識はそれほど高くなかったが、今年のチームは全力疾走が徹底されている。初戦では足でプレッシャーをかけて相手のミスを誘う攻撃で夏の甲子園優勝校の作新学院を見事に撃破した。馬渕史郎監督も「センバツでは優勝を狙う」とコメントしており、投手陣がレベルアップすれば当然侮れない存在となるだろう。

 最終的には個々の力の高い履正社、早実が決勝に勝ち残ったものの、チームとしての完成度には大きな差は見られないという印象を受けた。センバツでももちろん履正社が優勝候補に挙げられることは間違いないが、岡田龍生監督も「このチームで全国で優勝できるとは思わなかった」とコメントしているように、圧倒的な力があるというわけではない。長い冬のトレーニング期間の成長次第では、春のセンバツは全く違う顔ぶれのチームが上位に勝ち残ることも多いに考えられるだろう。

 次回は個人に焦点を当て、「印象に残った投手編」をレポートします。(西尾典文)


西尾典文(にしお・のりふみ)

1979年、愛知県生まれ。大学まで野球部でプレーし、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。大学院在学中から技術解析などをテーマに野球雑誌に寄稿を開始。大学院修了後も高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間約300試合を観戦し、『Timely!』、『アマチュア野球』、『ホームラン』などの雑誌を中心に寄稿している。ライター業以外にも2015年、選手とチーム・企業を繋ぐwebのスポーツマッチングサービス、『Lifull Scouting(ライフルスカウティング)』を立ち上げ、運営を行っている。



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